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 で、【異界の勇者達】が戻ってくると先ほどとは異なって3人しかいない、そして行きになかった水晶玉が手の中に一つ。俺の契約主の心愛がにっこりと作った笑顔で出迎えた。


「やあ、お帰りなさい。そしてお疲れ様。探し物は見つかったかな?」


「ああ、何とか……貴方のお陰だ、ありがとう。」


「それはよかった、じゃあ早速裁きを受けようか。」


 勇者が礼を述べた途端、俺と名留が動作なしに放った炎が3人を囲い込む。


「急なことだと思うだろうけど、流石に犯罪は見過ごせないからね。」


「犯罪!?犯罪って……俺達に入っていいって言ったのはそっちだろ!!」


「ちょっと何するのよ!!今更不法侵入で私達に罪被せたわけ!?ふざけないで!!」


「そうですわ!!必要なアイテムを探して持っていっていいと、そう仰ったのは貴方方でしてよ!?」


 身に覚えのない罪状を突きつけられたとそいつらは心愛に抗議するが何処吹く風で首をちょこんと可愛く傾げた。


「うんうん、その抗議は尤もだね。僕は確かに行っていいと言ったし、君達はきっかり2時間で探し終えて同じ扉から戻ってきた。【そっちの約束】は守っていたよ、でもね……そこの【本来なら招かれざる客2体】の行動はダメだったわけだ。」


「ってことでとっととその女共のツラ外せやてめーら、気色悪いったらねーよ。」


 心愛の意図を明らかにできそうなタイミングを測って俺が指を一つ鳴らす。炎は勇者じゃなくて、女2人を包んだ。


「ひっ!?いやああああああ!!!!」


「きゃああああああ!!!!」


「エドリ!!ナナシア!!」


「そうだ、先に言っとくけど普通の人間だったらそれ何のダメージもねーしすぐ消える炎だからな。どれにも当てはまらねーから人間じゃねーわなこいつら。」


 つか、この女ども偽名そんな感じだったのか。そもそも偽名あったんだなとかなんとか思いつつ、そいつらの姿が見えなくなるまで赤い炎で容赦なく囲み火力を上げてみた。正直このまま無抵抗で死んでくれた方が楽だとは思ったが、耐え切れなくなったのかうち1人が水の魔法で打ち消しその正体を現した。


「ふむ。天使の方は力的にアークエンジェルくらいはあるけれど、天使に転生して間もない感じか。悪魔は人間に因子を植えて乗っとったって感じかな。どっちも取り込んだ人間の皮から芽が生えたくらいの実力だね。」


 心愛がそう評価して、皮を焼き払ったことで現れた二つの相貌を見据える。


『くっ……傲慢な人間と従属しないと生きていけぬような穢らわしい悪魔ごときに正体を見破られるとは……!!』


『ちっ、だから此処へ行くのは寄せと言ったのに!!』 


 片方、魔女が立っていたところに白い羽の女っぽい人間、シスターが立っていたところにひしゃげた蝙蝠みたいな羽のついた女っぽい人間が立っていた。双方俺の炎でボロボロだがまだ立って口きけるくらいの余力はあるらしい、もっと火力上げればよかったなと舌打ちしたくなった。というか、普通逆だろ天使と悪魔の化ける方。


『き、境界門にこんな奴がいるなんて、天界からは何も聞いていないぞ!?』


『我らの正体を見破れ、我ら同胞を従えて、お前は何だ、一体何者なんだ!?』


「それじゃあ、改めて自己紹介をしよう。僕は心愛、当【中立世界】と各世界を繋げる【境界門の番人】。有体に言えば門番です。」


 ローブの裾を摘んで礼をとり、心愛は続けた。


「ーーそして、主に人間へ選択強制を強いた天使や悪魔に対し相応の対処を任されています、『アルカナ』【審判】の二つ名を冠する者。若輩者ですが、よろしくお願いしますね。」


「俺はタケル、よろしくしねーけど心愛の契約悪魔にしてまんま【悪魔】の『アルカナ』持ちだ。今てめーらにぶっかけた炎は俺特製【皮破りの炎】ってもんだ。そのまま死んでくれりゃあと楽だったが残念だな。」


「今姿現してこっち殺そうとしても、ただ処刑時間が伸びただけなのにねー。あ、はいはーい、此方心愛ちゃんの契約悪魔で同じく『アルカナ』持ち、【悪魔】の【魔】担当の名留ちゃんでぇーす、meはよろしく……あ、やっぱよろしくしなくていいや。ちなみにタケルおじさんが悪魔の『悪』担当ね。」


「おい俺をだせーコンビの相方に選ぶな、1人でやれ。あとおじさん呼びはいい加減やめろ。」


「な、何なんだ意味がわからない、エドリとナナシアは?これは一体何なんだ!?」


「あ、この勇者さん単なるカモだったって話本人にした方がいい?おじさん。」


「俺の話を聞けよ。てかそのでかい声で既にカモとか聞こえてるし、したところで頭悪そうだから理解できると思えねーんだけど……。」


 名留の指差した方、腰を抜かして座り込んだままの勇者、とやらを見て一寸悩むが、一寸だけといういことは。


「……端的に言ってやるなら、そこのシスターの皮被った悪魔に勇者様と担ぎ上げられ、【聖女】の魔法使いとして転生してきた天使の任務達成のためのアシにされた。ってことだ。あんた。」


 割とでかい声で説明してやったが、聞いてんだか聞いてないんだかわからない顔面で勇者は硬直した。少しは答えろよ、は?ぐらい返事しろよ。


「……り、利用?俺が利用されていた?俺が利用していたんじゃなくて、俺は、俺はこの世界に勇者として必要とされたから、あ、あの世界に転生したんじゃないのか?この世界を救うために、俺は!!チートの力を手に入れて!!強くてニューゲームしたんじゃないのか!?」


 それとも返事ができないくらい動揺してんのかと可哀想に思っていたら早口で何事か捲し立て始めた。理解はしたらしいが、取り乱しすぎて何言ってんのか全くわからん。


「何だよ、何なんだよ、俺がやっていたゲームじゃないのかよここは!!チート属性持ちの俺の課金した自キャラになって、ヒロインにも愛されて!!そういうキャラになれたんじゃないのかよ!!」


 ちょっと集中して戯言を聞いたら、どうやらこの勇者どこぞの転生者だったようだ。過去見で深掘りすりゃ詳しくは見れるだろうが興味ねーからやらない。ただその口ぶりからするに転生前も碌な人格じゃないのは理解できた。そして一欠片でも可哀想と思ったことを後悔した。


「おおすごい、おじさんの説明理解できてるよ。でも勇者さんやってることは世界を救っているどころか破壊を招いているんだよねー!天使と悪魔の唆しに負けて!!うん、残念!!」


 残念って言いながら親指立ててる名留の頭をとりあえず叩いておいた。


「おいそんな嬉しそうに言うなよ、俺らがこいつの幸不幸を左右して喜んでるように見えるからな。」


「あっごめんついうっかり悪魔の性が……。でもこの人行動録からして元々碌な魂じゃないんだね。悪魔が好きになるのもわかるわー。」


「俺は嫌だぞこいつの魂。」


「というかおじさん心愛ちゃん以外の魂いらないじゃん。」


「よし、わかって……ちょっと黙るぞ。」


 名留が、魂の行動録ーー俺や名留が出来る過去見という感じのものーーで何となくという感じで見たらしい勇者の魂を評価していると、不意に、心愛から立ち昇る気迫の異変、基、激しい冷たさに揃って口を慎む。


「タケルさんの言う通り、そこの2人は勇者さんを使って他の世界へ破壊を招き、剰え僕らの世界へ【身を偽って侵入】した。こっちに天使と悪魔が侵攻しやすいよう細工を施すオマケ付きでね。」


「あ、そうそう、そのオマケはこっちが回収済みね。そんではい、消去かんりょー。残念でしたー!!」


 名留がズボンのポケットから蒼炎で囲ってある黒い塊と白い塊を見せると、片手でぐしゃりと潰す。バレないように細工しながらやっていたのだろうからこうも簡単に目の前で潰されたのは屈辱的だったようだ、天使も悪魔も凄い形相で全開の笑顔で煽ってる名留を睨んだ。腹立つ気持ちはわかるが俺も名留の立場なら煽り散らかす。


「天使と悪魔の魔力が篭ったものを特定の場所に留めるようにすることで道を作り、同胞らの内部侵入を手引きするつもりだったろうけど、そうはさせないしそれは不可能だよ。」


『不可能だと?!馬鹿なことを言うな!!』


「だってあの宝物殿は【君達が作った宝物殿】で、僕らの世界に存在するものじゃないからね。」


 天使の下に見た荒い問いでも、ご丁寧に心愛が答える。なのに空間はわかったも何も言わない、沈黙で支配された。心愛の言ったことが、馬鹿だから理解できてないらしい。


「わかりやすく説明すれば、僕は召喚魔法と分類される能力に適性があってね、僕のベストなやり方にアレンジしたんだよね。簡単に言えば、扉という形を模して【強く思う記憶やイメージ】を召喚する。でも召喚とはちょっと違うなーって思ったから、【偶像化】って僕は総じて呼んでいるんだけど。」


『な、何を、言っている……?人間が我々の思考を読み取り何の違和もなく幻の部屋を作り出したと言っているのか!?下等な……搾取されるだけの人間風情が!!』


 結構悪魔の方は理解できたようだ。理解したからこそ否定したいらしいが、天使が勇者が持っている水晶玉を見つめて、その事実を口にし震え始めた。

 【俺の契約者が最も恐ろしいことをしている】って連中が否定したいことが現実であると認めるように。


『いや、いや、幻じゃない、現に今私達が持っている水晶玉は本物で、まだ此処にある……この人間は本当に我らの思ったことを、本当の存在として召喚したんだ!!』


「僕が君達に言った事は間違ってないよ。大事なものがどこにあるかを考えた時、宝物がたくさんある場所として宝物殿をイメージした。だから扉は確かに【君らが望む場所】へ連れて行っただろう?」


 ゆるく弧を描いていた眦が目を開く。すっと鋭く敵意に光っているのに誰に向けたものでもないものは、それでも目の前にいる天使と悪魔、勇者とやらを竦ませるには十分だった。


「今破壊を進めている世界について、僕らは立場上不干渉を貫かせてもらうけど。」


 俺ですら怖えーと思うから真正面から見たやつは動けないな。


「僕らの世界の侵略するとなると話は別だ。人から選択肢を奪い、生きる道を強制する危険因子と見做して、君達を裁かせてもらう。」


 裁判の有罪判決と言っても過言じゃない言葉を心愛が告げた瞬間、勇者とやらが吐血した。その前に破裂音みたいな結構耳にくる音がしたが、加護が施されているはずの鎧が砕け散って、勇者を豪語したやつの胸部から二つの手が突き出ているのが見えた。


「……え……?」


『ああくそっ、意味がわからない!!とにかくこんなことになるならあの老婆を殺しておけばよかった!!』


『善行を多く積んでいたからと見逃していたが……早急に戻って始末せねばならないな。』


 か細い疑問符が勇者から飛び出た。悔しそうな顔の悪魔のひしゃげた手と、苦虫を噛み潰したような天使の白い手が真っ赤に染まっている。そいつらは揃って男の心臓を鷲掴み、戸惑いなく粉々に潰した。

 勇者の血は光を伴い、両方へ力を送り込むかのように腕を伝ってみるみるうちに巨大化させていく。それは各々、【2体】の獣へと変化した。片方は蝙蝠の形と紫と黒の毛並みの混じった虎みたいな怪物、片方は2枚の羽毛に包まれた翼、白と金の色でなけなしの高潔さを出しているようだが、山羊を巨大化した感じの化け物じゃそれすらも吹っ飛ぶな。

 本来の姿に戻ったのだろうそいつらを見比べながら心愛は臆することなく、むしろ合点がいったと言わんばかりに頷いた。


「ははーなるほどなるほど、勇者さんとその装備品にあった加護は、アレの本来の力だったんだね。」


「こいつらの力、あっちの世界の連中じゃ免疫ねーウィルスみたいなもんだからそりゃ死ぬわな。」


「つまりあの勇者さんって実力とか徳とかなくて、最初から最期までハリボテだったんだねーかっわいそー。」


 どの口でそれ言うんだか。名留はクスクス笑っていやがる。だが名留の言葉は否定できない。あれほどわかりやすい殺気を前に警戒して間合い取ることすらしてなかったあの勇者とやらは、どっかの世界から転生した中でも1、2を争うハリボテだったんだろうと思う。死んでしまった奴のことを考えても無駄である。もうこいつらをどうにかしよう。中に入られるのはまずい。


「で、もうヤっていいんだよなぁ心愛?」


「いいけどここではダメだよ。【キファ・ボレアリス】。」


 心愛の身長を軽く超えた愛杖はその名を呼ばれると、先端についている丸い宝石が星みたいな粒子を振り撒き、さっきの勇者連中に出した扉じゃない、門を作り出した。


「【彼らが罪を裁くに相応しい場を示せ】。」


 『中立世界』の紋よりもデカくなったそれが、俺らと化け物を飲み込むと、一面マグマと暗い空へ早変わり。ボッコボコにマグマは沸いているわめちゃくちゃ湯気出てるわ……。


「あいっかわらずクソ暑いな流刑地!!しかも一番やべーとこじゃねーか!!」


「だって此処の方が本領発揮できる場所でしょ。」


「確かにme達燃やすけどさ!!限度!!限度プリーズ!!」


 心愛は頑張れーなんて涼しげに笑っている、そりゃ俺らが熱くならないように恩恵与えているからの余裕だし、その緩さがクソ可愛いんだがそんなこと言ってる場合ではない。確かに炎を操る点では有利な地だが暑さに強いかの話は別だ。


「とっととぶっ殺して帰るぞ名留!!」


「今日のご褒美カルボナーラのために!!」

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