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「さてさて、彼ら、もう着いた頃だと思うけど……名留ちゃん、今どうなっているかな。」


 はいはーい、心愛ちゃん期待の名留ちゃんでーすっ!今ちょーど勇者さんが着いたところ。


『うわ、本当についたのかよ……。』


『あの門番、相当なレベルの魔力持っているなんてもんじゃないわよ、異空間同士を繋げることを普通にやっていること自体おかしいこと……説明の時に気づけばよかったわ全く……。』


 いいリアクションも取れているよ!やったね心愛ちゃん!


「ねぇ名留ちゃん、僕に今の会話聞かせたのわざとかな?」


 meの契約主が凄いということを契約主は知るべきだと思ったので、心愛ちゃんが凄いという自覚を持ってほしいということでおじさんからはゴーサインもらってます。


「ちょっと言い回し変えても褒めるの2回繰り返すのはやめようね!?」


 あ,照れてる可愛いー仕事捗るー。ってことできちんとお仕事するよー。

 勇者さん達ついたの、心愛ちゃんが予想していた通りの【王宮の宝物殿】。そんでこれまた予想通り【1人】いないよ。


『あああ!!またあいつはいなくなって……!!まあ自動で扉が出るというなら大丈夫か……?』


 へぇ、あの人いなくなるの勇者さん達的にはいつものことなんだ?


「あまり心配してもいなさそうなところからもそうみたいだね。」


ってかさ、1人単独行動しても仕方ないよね。で済むチームワークってちょっとやばくない?普通おかしいとか思わないのかな。


「彼ら的には、それで今まで何も起こらなかったって結果しか見ていないようだから見逃していたんだろうね。まあ……何故単独行動をしているか、何も疑問に持たないことは愚かなことだけど。」


 あ、分かる。でも勇者さんの方って何か言いくるめたら考えるのやめそうな奴だし、どっち側にしてもチョロいカモな人間だよ。よおおおおく考えろっていう方が酷じゃない?あ、今色々荒らし……探し始めたよ。何か言い伝わっている形状っていうのがあるみたい、ありきたりで水晶玉だってさ。


「魔王を倒すのに水晶玉ってありがちなの?」


 さあ?心愛ちゃん的にどうなの?


「相手より高位のものか何か呼び出しして殴った方が早いよね、確実に死ぬし。」


 流石心愛ちゃんその答えだと思ってた。で、勇者さんなんだけど結構必死に探しているよ。魔王を倒したいって気持ちの強さ、これは嘘じゃないね。


「あれ、意外。そうなんだ?」


 でも倒したら女の子にモテるとか馬鹿にした連中見返せるとか、高めの地位について好き放題したいみたいな欲望まみれだけど。


「あはははは……これはまたコメントしづらい……。」


 シンプルに動悸が不純って言っていいよ。過去に何があったか知らないけど何かあるみたいだし、meやおじさんからしたら人間らしいっちゃらしいねーで終わるもんなんだけどさー……この欲、かなり膨れ上がってるんだよね、そりゃあちらの方も力も強くなるのが納得できる。


「え、名留ちゃんですら丸わかり?」


 うん、魔王さんの力が何で増幅しているのか、その手法もガッツリ分かったよ。本人達的にはうまく隠し切れていると思っているみたいだからそっちの世界では完璧にわからない手法だったんじゃない?


「ええ……?そっち、魔法って概念が伝わってないのか浅い世界なのかな。」


 こっちの世界の概念でもって探知とかやってないからじゃない?


「そっか探知の方向をこっちの概念に向けないと、見分けるのは難しいか。」


 ってするとさ、予言って形とってうちに行けって言ったお婆さんすごくない?押し付けられた感も酷いけど。


「ははは……まあ分かったなら仕事終わるのは早い。頑張ろうか名留ちゃん、終わったらカルボナーラ食べに行こう。」


 わーいやったー!温玉つけていい?


「いいよ、折角だしちょっといいところ行こうか。」


 オッケー!あともう一個言っていい?


「何?」


 これ、両方【アウト】。


「……美人が2人もいて名留ちゃんが反応しなかったからそうかなぁとは思ったけど……分かったよ、ありがとう。そのまま2時間ギリギリまで泳がして、いい感じのタイミングになったら水晶玉落としておいて。」


 りょーかーい!じゃあおじさんにバトンタッチするね!


「ありがとう、引き続きお願いね。で、タケルさんの方はどうですか?」


 ……おー、何だ。あいつの方が正解引いたか?


「ある意味ね、名留ちゃんも全部お見通しだった。」


 はあ?ってことは雑魚じゃねーか。俺らが行って大元ぶっ殺した方が早いんじゃねーの。


「大元が僕らへ干渉しているんだったらやっていいよ。」


 あーその言い方お前分かってて聞いてんな……残念ながら魔王様はこっちの管轄じゃなかった。やることだけやるぜ。

 こっち、王宮【アルカナ】会議室はあいつ1人だけいる。んで俺の存在を認知した。


「ああじゃあ、タケルさんの姿も言葉もはっきり分かるってことね。」


 ああ、それでこいつから色々聞いたが嘘偽りはなかった。


「話はどれくらい聞いたの?」


 全貌。かなり協力的だったぜ。俺が聞いた話は心愛に全部話しても構わないって言質も取った。


「わあすごい、周到だ。」


 そりゃお前、1番に契約した使い魔の仕事だろ。


「そのフレーズ好きだね本当……。」


 当たり前だ、お前の一番に関しては誰にも譲らねー。


「もう、僕恥ずかしくなってきたからお仕事して!!」


 へーへー、照れるポイント相変わらずひっくいなぁ……。それでだ、こいつの世界の魔王ってのは突然現れて世界の破滅を宣言してきた。その時まで、人間同士の争いだのはあったが魔物だの異形の存在ってのは確認されたことはない。


「あれ珍しい、魔法が使えるのにそういう世界なんだ。」


 精霊だの神秘ってのは馴染んでいたが、人を害する魔物みたいなもんはいなかったそうだぜ。ただ件の魔王出現と同時に魔物発生、根源と思われる魔王を倒そうにもそんな前例なんてねー。よって倒し方が分からない。しかも、対抗できうる神秘が今まで慣れ親しんだ神秘ってのが軒並み人間から離反して魔物になったのもデカかった。


 んで、そいつは魔王どうこうよりもまず、精霊達がどうしてそうなったのか原因を探りたかった……が、ある日突然現れた【勇者】と【聖女】が魔物への対抗力を持っていて、それなら魔王も倒せるかもしんねーってんで、護衛として魔王を【殺す】旅のメンツに無理やり入れられたらしい。


「……ねぇ思ったこと言っていい?さっき魔物はなく人間同士は争っていたって

言っていたよね。魔王の出現や精霊の突然変異って別に連中が起こしたことじゃなくて、神秘側が争いをやめない人間へ謀反起こしたってことにも読めない?」


 十中八九それだろ。そこに連中がつけ込んだ結果が今。マジで崩壊寸前のややこしい状態って感じだな。


「あらら……勇者さんは世界を救っているんじゃないの?」


 いーや、勇者がやっていたことはあっちの世界の破壊を進める行為。それをどうにか食い止めるために、こいつは逐一単独行動でどうにかしていたらしい。そこんとこは企業秘密だかで口は割らなかった。


「知ったところで介入するつもりないの丸わかりな態度だったら、言うわけないでしょうよ。」


 おーよく俺の考え読んでくれてんな。まあ聞いたのも興味本位だしな、しゃーねーわ。でだ、その手を尽くして今の状態だって言ってる。予防にはなっているがもう手遅れかもしれないとか頭抱えてるぜ。


「……もしかすると、タケルさんもそっちの世界で何があったか色々と分かってる?」


 わかりやすすぎて笑いそうだったわ。


 まず一方がお偉いさん各々に【勇者】の存在を仄めかし、こっちの概念の転移魔法だか何だか使って【勇者】を呼び出す。【勇者】はそいつの導き通りに物事進めて魔物を倒す。そんなもんだからお偉いさんは【勇者】とその唆したやつの言いなりになる。今そっちの人間どもが畏怖して排除しようと動いている魔物を、魔王を倒すことで世界そのものがどうなるかも知らないでな。


「あれ、そもそもそっちの世界のお偉方は魔物、ひいては魔王の正体を知っているんでしょ?どうして倒す方に傾倒するかなぁ。」


 見放された原因がてめーらにあるって自覚してるからじゃねーの?そこを連中に突かれて流されたって見ていいだろ。


「自分達が益のために争って精霊利用してることが過ちだと改めるより、精霊達が人間を裏切ったんだって舵切った方が楽って結論付けたのか。」


 何とも人間らしいっちゃらしいよな。


「それからすると、彼はその世界において相当稀有な考え方な人間なのかもね。」


 人間の身で真実から目を背けない奴の方が稀有だしなぁ、今の時代。

 ってか悪い、話脱線したな。そんで唆した奴は精霊がいなくなったことで色んなバランスが崩れ前より更に欲望だの戦争だのでもっと泥沼な破壊的世界になったところで、自分が王になろうと考えた。その途中で横槍を入れた奴がいる。それは【聖女】としてこいつの世界に紛れ込んだ。


「あ、待って、【聖女】は本体?」


 いんや2体とも本体であり、2体ともその世界においては【聖女】扱いされていたらしい。そいつもそいつで世界の破滅はそのままに、人間の中でも善良な魂を貰いにきたみたいだぜ。


「あれ、そこは予想してなかったな。てっきり止めるかと思っていたけれど……まあいいか、それで狙っているのは勇者の魂?」


 違うな。【勇者】の魂はハナっから諦めてる、あの世界の中でなお善を行っている連中とか、そいつのお眼鏡にかかった魂を持っていくつもりらしい。


「あーあーそっちは予想通りかぁ……。」


 人間以外の存在だの精霊だのを度外視してるところが共通して面白いよな。そんで連中も自分の目的を早めに果たそうと、殺した精霊達の気配だの残りの魔力だのを片方が保管して、あっちの世界の人間が持っている負の感情を片方が混ぜ込み、精霊の親元である魔王へ流し込んでいった。それを受け取った魔王はどんどん悪の権化として進化したのだった……って筋書きだな。


「手法がわかりやすい上に外道っていうのが本当……うーん、どうもコメントできないなぁ。」


 それはそれで置いとくぜ。この話聞いた感じだと、この魔王の強化は精霊の死連中どうにかすりゃ勝手に軌道修正かかって止まるが。


「そうだね、要は負の感情の供給源が絶たれるわけで、魔王がこっちで察せられているもので合っていたら、強制的に取らされていた負の感情に対して、ある程度自浄が効くはずだ。」


 で、その供給源もといこの2体をどうするかってのは俺らの管轄にしてくれって解釈でOKじゃね?


「……それはあれかな、このご一行を僕らが何とかするってことだよね。」


 しかねーだろ、てかお前だってそれ分かってるから情報集めたんだろ。それに名留から『【アウト】が2体、こっちの領域入ってきて、【重要な場所である宝物殿】を荒らしている。』って言われたばっかだろーが。


「そうだよねー、それやったのはデカいよねー……。」


 いつまでしらばっくれてんだよ、最初からそのつもりだった癖に。


「ははは、バレた?本当なら穏便に皆帰ってもらいたかったし何なら此処にきた時点で悪巧みをやめて欲しかったなぁーって気持ちはあったんだけど。」


 笑い隠し切れてねーし、まだそんな甘い考え持ってんのな。


「仕方ないでしょ、僕元々そういうの苦手なんだから。」


 そういうとこもまた可愛いとこだけどな。お前は。


「タケルさんもすぐそういうこと言う……じゃあ、僕の言いたいことなんて、もう分かってるよね?」


 まーな、さっさと終わらせてやるから今日はもう仕事終いにしろよ。俺は朝までしこたま飲む、付き合えよ。


「ちょっといいところ行く予定だから、暴食も許してあげる。」


 ははっ、いいねぇ大盤振る舞いか!!


「じゃあ戻ってきて。そしたら『始めようか』。」

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