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「武器探しねぇ……。」


「ああ。俺達の世界を破壊しようとする魔王、奴を倒すための武器がこの世界にあると聞いた。」


 はい。前置きカッコつけてのご挨拶早々に一発目のお仕事現場からお送りします。

 多方の世界と僕らの世界に繋がる門を構えた境界線。突如光の球体が現れて僕の前に魔王討伐を任されてるパーティー定番の役職の格好をした男女4人が立った。


「道中魔王の侵略は食い止めてきたが、奴の力が増幅しているんだ。時間がない、頼むから通してくれ!!」


「力が増幅している、ねぇ……。」


 開口一番自分達の目的を述べて僕らに向かって綺麗に頭を下げる彼が代表者……多分、その世界の勇者と言ったところか。磨き上げられた金色の鎧や兜に加護……?がかかっているし、彼が提げている剣の加護からしても、そう位置付けるのは妥当と言ってもいいだろう。


「ちょっといつまで頭下げてんの。この人通してくれなさそうだし諦めようよ、大体あの情報くれたお婆さんって余所者とか色々言われてて信憑性だってわからないし。」


「そうですわね……こうしている間にも、魔王がどのようなことをするのか気がかりでなりません……。」


 魔女風の女の子が語気強めに、横のシスター風の優しい雰囲気の女の子がやんわり不安げに立ち去ることを提案して勇者くんの腕を引っ張って抗議?している。


「でもよ、あの婆さんの『真に魔王を倒したくば鏡を向けて境界を超えろ』ってやったら此処ついたじゃん。予言の婆さんがいうこと、全部は馬鹿に出来ねーだろ。」


 で、いかにも剣士という風態の男の子が女の子達に反論して此処へ入るよう促して。勇者くんは唸りながら腕を組んだ。

 その様子をある程度観察していると1つ仮説が見えてくる。冒頭でも言った通り、此処は本来普通に生きていれば辿り着くことのない場所。魔王退治は普通じゃないって?そうでもないよ、魔王と人間の戦いが常日頃な世界線はいくつもあるよ。何で知っているかってそこから来る人もいたからね。

 さて、そのお婆さんとやらの予言、もとい現時点での僕の予想が当たっているとするなら……。


「わかった。」


 頭の中で弾き出した答えを確かめるための彼らへの僕の返答は、あちら側には肯定の意と解釈できたらしい、彼らの顔が明るいものに変わった。


「君らには時間もないみたいだし、時間制限付きでこの世界の滞在を許しましょう。」


「ありがたい!!長居する気はないが、いつまでいてもいいんだ?」


「そうだね、2時間くらいかな。」


 提示した時間に途端ざわめいた。


「そ、それはあまりにも短すぎない!?示されたものっていうのはね、2時間で探せるようなものじゃないのよ!?」


「まあまあ落ち着いて。何もこの世界丸々歩けなんて言わないよ。」


 持っていた杖の先端、蕾の形をした金属が開花して、キラキラと光の粒子が浮かぶ丸い水晶が顕になる。彼らの前に水晶の中に溢れる光を落とすと、それは正方形の扉へと形作る。何の変哲もない、茶色い扉だ。僕の後ろにある扉に比べたら小さいし立派ではないせいか彼らは訝しげに僕を睨んだ。この扉を見る人は毎回同じ反応と態度なのでそんなに焦ることはない。


「この扉は特別仕様でね、君達の望む……そうだな、『魔王を倒す宝のある場所』へ行きたいと思えばそこに連れて行ってくれる扉だよ。」


「そ、そんな夢のような話あるわけがありませんわ!!」


「これができるんだよねぇ、僕だから。」


 シスター服の子が驚いた顔でこちらを見た。


「門番って職業上、探し物がしたいだの何だので此処に来る人の相手するの結構あってねぇ、その人らのためにかける時間や手間も惜しいから、こうして短縮方法取らせてもらったんだよ。」


「うわ何か……管理職の辛いとこが見えたわ。」


 魔法使いみたいな子に哀れな目で見られたが、まあそこは仕事用笑顔で誤魔化しつつ笑って扉を示した。まあ世知辛い感じのは事実だが。


「行きたいところ望みながら此処入れば目的地にすぐ行けて、ちゃんと2時間経過したら自動的に扉が出てくる仕組みになっているから使っちゃって。」


「ほ、本当に……いいのか?」


「いいも何も、色々漁られて違う物持っていかれたり入っちゃいけないところ入って不法侵入扱いにされたらたまったものじゃないからね。その代わり、探し物が見つからなくても時間通り、ちゃんとこの扉から帰ってくること。」


 勇者くんがまず、恐る恐ると言う体で扉を開けて中身が見えないほど満たされた白い光の中へ入り……勇者くんに続いて各々入っていった。

 最後の1人が入った後、僕は誰もいない空間……と見せかけて、実は途中から実体を消して気配だけ漂わせていた彼らに告げた。


「じゃ、後は『自由にしていいよ』。」


 僕だけがわかるよう漂っていた気配と影が2つ、蒼炎と黒い炎を僕の視界の端へ灯して了の合図を取ると、すぐに消えていった。

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