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セゴナという名のこの国で、ごく普通の少女として暮らしていたジュ=ヤミは、ニムになるために、唯一の試験を受けた。
ここまではおかしいところは何もない。
記念受験は年頃の女の子なら、誰でもするようなごく一般的なことだからだ。
ジュもその一人であった。
ニムとは要するに使用人のことである。ただし普通の「使用人」と、この城でのみ使われる単語の「ニム」とでは、指す意味が大きく異なってしまう。
使用人とニムの最大の違いと言えば、仕える相手の違いとなるだろう。
使用人が仕えるのは雇い主。金銭によって繋がれた主従関係が大前提。
それに対してニムが仕えるのは、神であった。
神の機嫌を宥めるために、生贄として若い女の身体を無償で差しだし、労働力とする……という名目。
そのためか仕事というより、奉公という趣が強い。
セゴナには、三人の神(と呼ばれる人間)が実在する。そしてそのうち最も人気がある神こそ、ミナヤ=クロック。
このミナヤが、ニムの主人であるのだ。
ミナヤはセゴナの法律でも最高権力を持つと記されている。
それこそ単純に神としか形容できないほどの実力者でもあるから人々に頼りにされる。
その優しさから【人類の母】の異名をまで持つ。……そこまで愛されている女性であるので、ジュの調子を狂わせたあの金髪の少女のように、あまりに恐れ多くてその名を騙れるような代物では断じてない。
このミナヤに仕えるからには、少しでも完璧を求めねば失礼にあたる。
そして完璧な女性というものは、セゴナではそれだけで憧れの対象となる。
それ故、ニムは女の子にとって、憧れの職業なのである。
こんなニムになるには「毎年一回行われる試験に受かる」しかない。
倍率は激しい。セゴナの国籍を持つ人口は、全体でおよそ二千万人。そのうち、ニムになろうとする若い女性は年間二十五万人ほど。
多くの女性が試験に受けるわけだ。これに対し、定員はあまりにも少ない。
ニムになれるのは、毎年一人と定められている。
それはもう、毎年熾烈な争いが行われるわけだ。
二十五万の女性が、一つの席を求めて試験を受ける。
ここまで過酷な条件の中に、今年はジュも混じっていた。
どう間違っても自分みたいな普通の女の子が合格するはずはないけれども、もしかしたら合格、するんじゃ、ないかなあっと……思ったりみたりなんかして。
もし合格すれば、それだけで小父さんと小母さんの恩返しにもなる。
まあ本心は、自分の力がどれだけ通用するのか、確かめるだけ。
……そんな軽い気持ちで受けてみた試験は当然の如く、難しかった。
ない頭を振りしぼり、ある時は即興で、ある時は諦め、ある時は硬筆の倒れた方向によって選択肢を選んでみたりと、とにかく頑張った。
ここで落ちるんだろうな……そう覚悟したのもつかの間、なんと一次試験を通過したと報告が出る。
小父さんも小母さんも凄く喜んでくれた。ジュも嬉しかった。その日は御馳走だった。
一ヶ月後。今度は二次試験。これは作文だった。論文ではなく、作文。
お題は「どうしてニムになりたいのか」だ。思ったことを思った通りに書けばいいのだが、単純であるが故に、むしろ並み大抵ならぬ情熱のほどをアピールせねばならない。
ジュは自分がどれほどニムに憧れているのかその胸の内を、全部そのまま書いた。
どうしてかこれも通過してしまう。この日はさらに御馳走だった。
そうして三次試験・体力測定や、四次試験・料理と、次々に合格して――否、合格してしまい、果てはどんな神様のお導きか……ジュは最終試験まで残ってしまったのだ。
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