第147話 焼き鳥の真髄

「どうだ?坊主」

「うん、おいしい!全然これでもいけると思います」

「おお!この岩のような歯応え!さすがは岩のような防御力のある岩石鳥の肉といったところか」


早速岩石鳥の肉を使って焼き鳥を作ってみた。

岩石鳥の肉は、元の世界でいう鶏のぼんじりのような食感で、非常に噛み応えがよかった。

ちなみにコカトリスの肉は普通の鶏肉みたいな食感だ。


「ギンドウ、今日はやけに早く開けてるんだな…って何だこの旨そうな匂いは!」

「あれ?」

「ジェ、ジェミフ皇帝⁉︎」

「ん?ガドウたちもこの酒場を知っていたのか。通だな」

「ジェミフ…。相変わらず御忍びで酒場に飲みに来てるのか?護衛もつけずに」

「ナーッハッハ!お前まで固いこと言うなってガドウ!」

「おいおい…。お前はもうちょっと自分が皇帝だって自覚を持てよ…」

「おっとそうだ。今の俺は皇帝ジェミフではなくこの店の常連のジェイムズだ。覚えといてくれよ」


名前も変えてるのか…。

ちゃんとお忍びじゃないか。羨ましいなぁ。


「それで?その旨そうな料理は何だ?新作か?」

「この坊主が考え出した『ヤキトリ』という料理だ」

「なんと!リュウジには商会を経営する腕のみならず料理の才能もあったのか!流石だな!」


いや〜、それほどでも〜。

…よくよく考えたら非公式だけど皇帝様から直々に褒められるって結構すごいことなんじゃ?


「ほう。岩石鳥の肉を使っているのだな。あの肉は歯応えが強いのがいい」

「御託はいい!さっさと食え!」

「ガ、ガドウさん⁉︎皇帝様にその口のききかたは…!」

「ナーッハッハ!今の俺は皇帝という立ち場にはないと言っておろうに!では、いただくとしよう」


ジェミフ…もといジェイムズさんが串に刺さった焼き鳥に齧り付く。


「な、何だこの濃い味付けは⁉︎」

「ほれ、今度は酒と一緒に」

「お、おう…」


ングッ…、プハー!


「う」

「う?」

「うおぉおぉぉおお!!!」


わあ!

焼き鳥を食べたジェミフさんが突然立ち上がって、大きな声で叫び出した。


「なんて最高の組み合わせなのだ!是非これをこの国でも流行らせたいのだが!」

「え?」

「おっと、もちろんリュウジに損はさせない。そちらの言い値でヤキトリのレシピを買い取ろう」

「…すみませんがそれはできません」

「…理由を聞いても?」

「まだその焼き鳥という料理は完成していないからです」

「何⁉︎」

「こんなにも旨い料理が完成してないだと⁉︎」


だってまだ塩味とかできてないし、軟骨とかつくねとかも作り出せていないもん。

まだまだ完成には程遠いかな。


「そういうことならしょうがない。俺は大人しく新作を待つとしよう」

「俺もだ。まあジェミフよりも先にその新作を食べれるのは俺だがな!」

「おい!お前だけずるいぞ!」


元の世界の料理が異世界でも親しまれるなんて…。

この世界に来たばかりのときは考えられなかったよ。


「おーい、ギンドウ!何だこの香ばしい匂いは!」

「妙に腹が減る…いい匂いだな!」

「とりあえず、酒だ!酒をくれ!」


みんなで焼き鳥を食べていると酒場の入り口から一般のお客さんが入ってきたみたいだ。


「おぉ、お前ら!お前らもここに座りな!」

「あぁ…?」

「お前は…おぉ!ガドウじゃねぇか!久しぶりだなぁ!」

「帰ってきたってことは追放は解かれたってことか?」

「いや、今回は一時的に戻ってきただけだからな、まだ許されちゃいないがその件についてもをつけにきた」


ガドウさん…。


「…さぁ、湿っぽい話はこれで終わりだ。お前らもこいつを食ってみろ」

「何だこれ?」

「肉の串焼き…か?」

「さっきからする香ばしい匂いはこいつだったのか」

「それじゃあ坊主、頼むぜ!」


あ、やっぱり僕が焼くのね。


「は、はあ…、はあ…、疲れた…」

「済まねぇなリュウジ。俺も手伝ってやりたかったんだがヤキトリを酒と一緒に頼むやつが多くてな」

「いいんですよ…。こっちが勝手に頑張っただけですから」


ギンドウさんたちが焼き鳥を初めて食べてから2時間ぐらい経っただろうか。

焼き鳥の評判が人から人へ次々に回って最終的には酒場の外にまで行列ができるほどの大人気料理になっていた。

…その代償に僕はずーっと調理係だったしガドウさんやミングまで給仕係に回っていたけど。


「言ってくれれば俺だって手伝ったのにな」

「立場を隠しているとはいえ一国の皇帝様を給仕させるわけにはいかないでしょうに」

「ナーッハッハ!それもそうか!」


皇帝様が給仕をやっているお店とか…恐れ多すぎて何も食えないよ。


「……焼き鳥一本ください」

「はいはい。どうぞー」

「……」


そんなことを話していたら1人の女の子がカウンターまできて焼き鳥を頼んできた。


「おう、嬢ちゃん!ヤキトリの付け合わせに当店自慢の酒はどうだ?」

「…遠慮しておく。未成年だから」

「ん?そうか?俺はてっきり15歳越えてると思ったんだが…」

「…私の故郷ではお酒は20歳からでないと飲むことができない」


え?

この世界の成人って15歳だったの⁉︎


『『この世界では戦争が多々起きますから、少しでも徴兵令で兵士を集めたいのでしょう』』


嫌な理由だね。

でも、奇遇だな。

元の世界の日本でもお酒は20歳からだったんだよねぇ。

この世界でもそういう地域があるなんてなんだか親近感湧いちゃうな。


『『それは同じ世界からきたんだから…』』



「……あ」

「あれ⁉︎君、勇者くんのパーティにいたよね?」

「何だと?」

「…うん。空林めぐみ…16歳…」

「だ、大丈夫なのかい?勇者くんから離れていても」

「…うん、大丈夫。私にはあんまり仕事が回ってこないから…」


え、何よ。

勇者パーティの中でもそんな格差みたいなのが生まれちゃってんの?

あんな正義感の塊みたいなことを言ってたのに?


「本当に勇者ってのは碌なことをしないっすね!」

「大方ドスラニアで綺麗事ばっかり聞かされてたんだろうよ」

「…何やら俺がドスラニア国王から聞いていた勇者の話と巷での勇者の評判では大きく違っているようだな。一度詳しく調査してみるべきだな」


これは意外と闇が深そうだな…。

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