第148話 勇者パーティの実態
「…彼にとって私は魔法のこと以外なにもできない可哀想な女の子。もぐもぐ…。あっちには純粋な善意しかないから私は黙って彼のいうことに従うだけ」
「君はそれでいいのかい?」
「私は…」
「今の君の表情を見る限り、その現状に満足していないように見えるよ」
「……」
ひょんなことから勇者パーティの一員である無口な魔法使いの女の子と焼き鳥を食べながら勇者パーティ内の関係について聞くことになった今日この頃。
まああの勇者らしいっちゃあらしいけど。
「私は…もっと自由に魔法や魔道具について学んでみたい…」
「魔法が好きなの?」
「…この世界に来て1番最初に見せてもらったのが魔法スキルだった。それに加えて私の適性を調べてもらった時に魔法スキルに大きな適性があることを教えてもらった。…これで魔法スキルを覚えないバカではない」
急に流暢な喋り方になるじゃん…。
でもそれぐらい魔法のことが好きってことだよね。
「…一応あの4人の中で1番魔法スキルのことには詳しいつもり」
「たくさん魔法スキル覚えてたしそうなんだろうね」
「…何で知ってんの?」
「おっと…えーっと…。まあ不思議パワーってやつさ」
鑑定スキルについてはあんまり言わない方がいいだろうな。
ステータスは個人情報みたいなもんだし。
「…ふふ」
「ん?何かおかしかったかい?」
「…聞いていたより面白い人だなって思っただけ」
「そ、そうかい?」
「…それはそうと、どうやってこの焼き鳥を考えだした?やっぱりあなたもこの世界に召喚されたの?」
「うーん…。召喚、なのかな…?」
「…それじゃあ日本の人なんだ」
「一応そういうことになるね」
まあ召喚じゃなくて転生者なんだけどね。
「…あなたはなんでドワーフの国にいるの?人間の国の方が居心地が良いと思わない?」
「特にそんなのは感じないかな?まあ僕も商談のためにこの国に来てるだけで、生まれはここじゃないんだけどね」
「…そうなんだ。…もぐもぐ。じゃああなたは本当に会頭さんなんだね」
その言い方じゃあ僕が会頭だってことを疑ってたってこと⁉︎
酷いなぁ…。
「君はなんでドワーフの国に来たんだい?」
「…勇者のための装備を作ってもらうんだって。けど、ダンジョンに入れない影響で足止めされていた」
あの目玉だけの魔族とか、体だけの魔族とかね。
「でも材料が揃ったから製作が開始されたって聞いた。…もぐもぐ。もうそろそろこの国から旅立つとき」
おぉ。なんかカッコいいね、その言い回し。
「…あなたは?なんでこの国にいるの?召喚者の中には人間族の国にいる方が落ち着く人も多いのに」
「うーん…。これ言っていいのかわからないんだけど、一応僕は商会の会頭だから商談をしにこの国にきたんだよ」
「…納得。…もぐもぐ」
自分で『一応』ってつけるの悲しいけどね。
「…話は変わるけど、このタレはどうやって作ったの?この世界にも醤油があるのか気になる」
「これはとある村の中でたまたま見つけたものだから正確に言うと醤油じゃないんだよね」
「…残念。……おかわり」
「はいどうぞ」
見た目に反して結構食べるんだね、この子。
「これはどこかで屋台かなにかで出してないの?」
「うーん…。なにぶん最近開発したばかりだったからなぁ…」
「もし出店するときは必ず私に連絡して。…はいこれ」
そう言ってめぐみちゃんが取り出したのは1枚の手のひらサイズの銀のカードだった。
「なにこれ?」
「…知らないの?これは冒険者になる時に渡される身分証明書みたいなカード」
…た、たしかにそんなものが渡されたような渡されてないような…。
「おいおい、坊主お前まさかとは思うが冒険者になる時の説明をちゃんと聞いていなかったのか?」
「も、もちろん聞いてましたよ!」
「…とにかく、これは地球でいうスマートフォンだと思って。私が聞いた話によると、依頼の進捗状況や冒険者同士のコミュニケーションの動画になるらしい」
ふぇー…。なんだかわからないけどすごく便利ってことだね!
「……」
…視線が痛い。
「‥あなたの冒険者カードを私に貸して」
「わ、わかった。えーっと…たしかここにしまったはず…」
僕は収納スキルを発動させて亜空間の中から冒険者カードを取り出す。
「…私はもう何も言わない」
「なんと…空間属性持ちか?」
「いいや、あいつはスキル型だ」
「それでも貴重な存在であることは変わるまい」
なんかみんなが呆れてる気がするけど気にしない気にしない。
『『少しは気にしたらどうですか?』』
…さあ!それからどうするんだい?
「…こことここを近づけて…ここをこうすれば…はい。これでいい」
「ありがとう」
「今後は自由に私と連絡が取れるから。もし焼き鳥の屋台を出すときは絶対に声をかけて。…絶対に」
「は、はい…」
「…それじゃあ」
そういうとめぐみちゃんは酒場から出て行った。
「ふぅ。なんともつかみどころのない少女だったな」
「勇者パーティつってもムカつくやつばかりではないんだな」
案外ムカつくのは勇者くんだけだったりね。
「よし、俺らもそろそろ宿に帰るとするか!」
「俺も城に帰るか…」
「……そういえばさ、ミングは?」
「お、お連れさんか?そいつならそこにぶっ倒れてるよ」
うぇ?
あ!ほんとだ!全然気づかなかったけどミングが床で倒れてる!
「あーあ。こいつ、ドワーフ族でさえも強いと感じる『バザックスピール』ってウイスキー飲んでやがるぜ」
「ナッハッハ!人間族のくせに、なんて豪胆なやつなんだ!」
「ったくしょうがねぇ。おい坊主、そっち側持ってくれ。2人で宿屋まで運ぶぞ」
「わかりました」
ガドウさんと僕で両側を支えながらミングを運んでいく。
「多分俺とリュウジたちが次に会うのはシリヤスの不正が明るみになってからだ、そのときはよろしく頼むぜ?」
「あったりめぇよ!」
「はい!こちらこそよろしくお願いします!」
そうして僕たちはそれぞれの帰路についた。
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