第146話 ハルモーフ観光
「リュウジの旦那!」
「ん?どうしたの、ミング」
「ダンジョン攻略もひと段落して、作戦も順調。そうっすよね?」
「うん。多分ね」
今のうちは順調なんじゃないかな。
「だったら…」
「だったら?」
「ハルモーフ帝国を観光しましょうっす!」
「え?」
◆
「ここはこの街1番の醸造場だ。エールから強めのウイスキーまで何でも作ってる。この国にいるドワーフたちの血を作ってる場所といっても過言ではない場所だな」
「おー」
「なんなら今から一杯ひっかけるか?」
「さすがに真昼間からはやらないっすよ…」
「そうか?まあ俺はもらおうかな!」
いきなりミングにハルモーフ地下帝国の観光に誘われたときはアウトル商会のことで頭がいっぱいだったけど、いざこうやって観光してみるとこの国の特色とかがわかってきていいものだね。
「ギャハハ!愉快愉快!」
「おら!もっとやれやれい!」
「いいぞー!」
あちこちの酒場から楽しそうな声が聞こえてくる。
この国の人たちは本当にお酒を飲むのが好きなんだろうなぁ。
「くーっ!やっぱり強い酒を一気に流し込むのは最高だな!」
「い、いいっすね…」
そして僕の知り合いたちもお酒を飲むのが好きなんだなぁ…。
まだ午前中なのに顔を真っ赤にしているドワーフ族が1人、その隣でさっきは遠慮していたくせにウイスキーを貰いに行った人間族が1人いるんだもん。
「くはーっ!こいつは旨いっす!」
「だろ?坊主に飲ませられないのが残念でしょうがねぇぜ!」
くそっ!
一応この世界の成人は詳しくは決まってないらしいけど、前の世界でお酒が飲めるのが20歳からだったから、この歳でお酒を飲むことはなんか躊躇しちゃうんだよなぁ…。
「でも、こんな酒を飲んでしまったらリュウジ様が前に出してくれたヤキトリが食いたくなってくるっす」
「確かに!あの食い物はエールにもウイスキーにも合いそうだ!」
「リュウジ様〜、また出してくださいっすヤキトリを!」
えぇ〜いくらコカトリスをたくさん倒したからって肉の量には限りがあるんだよ?
僕だって貴重な日本食をそんな簡単に浪費したくないよ。
「…肉があればいいんだな?」
「え?うーん、まあ?」
「…よし。ついてこい」
◆
「ここは?」
「俺の知り合いがやっている酒場だ。一応人気店の1つでな、酒好きの中では穴場みたいな場所になってる」
「で、何でこの店にきたんすか?」
「言っただろう。ここは俺の知り合いがやっている酒場だと。ここでヤキトリのための肉を分けてもらうんだよ。ここは酒に合う料理なんかも出しているからな、肉ぐらい分けてくれるだろ」
ガドウさんに連れてこられたのは大通りに面していているけどあまりお客さんが入っていく様子が見られないお店だった。
「おーい!やってるか?」
「あぁ?今はまだ営業時間外だって外に書いてあんだろ!見てねぇのか!」
「おいおい、硬いこと言うなって!俺とお前の仲だろ、ギンドウ!」
「その声は…おぉ!ガドウじゃねぇか!元気にしてたか!」
「おうよ!国から追い出されたぐらいでくたばるかってんだ!」
お店の中に入ると、木でできた机と椅子が何個もまばらに置いてあり、店の奥を見るとバーによくあるカウンターがあった。
「ヒハハ!そうかよ!それで?昼間っから俺の酒場に何の用だ?」
「ちょいとこの坊主が珍しい料理が作れるんだがな?材料である肉も少し貰いに来たんだよ」
「ほーう?酒とつまみと鍛治仕事には口うるさかったおまえが認める程の料理だと?そう簡単には信じられねぇな」
「…坊主。こいつに1本ヤキトリを分けてはくれねぇか?1本食えばこいつも納得するはずだ!」
えー…。しょうがないな…。
「はい、どうぞ。これが焼き鳥です」
「…香りは香ばしくていい感じだな。だが、問題は味だ」
「ゴタゴタ言わずにさっさと食えって!」
「わーかったよ。それじゃいただくぜ」
ギンドウさんが焼き鳥に1口齧り付く。
次の瞬間、怪獣のような叫び声があたりに響き渡った。
「うおおぉおぉぉお!!こいつは旨ぇ!」
「だろぉ?そいつと酒を一緒に体の中に流し込むともっと旨くなると思わねぇか?」
「お、おぉ…。なんて魅力的な提案なんだ…。早速やってみるぜ!」
そう言うとギンドウさんはカウンターよりも奥にあった棚に積んである樽を引っ張り出してきた。
その間にガドウさんはどこからか木のジョッキを2つ取り出してきて、ギンドウさんはそのジョッキにビールであろうお酒を注いだ。
「プハー!こいつはたまんねぇな!」
「だろ?」
「これは絶品だ!このタレがいい味を出してる!どんな風に作ってるんだ?」
「それは企業秘密です」
「キギョウ…?」
「まあとにかく、これは秘伝のタレということで」
「その様子じゃあどうしたってダメみてえだな。しょうがねえ、ここはおとなしく引き下がるとするか」
危ない危ない。
気が抜けるとすぐ元の世界の言葉を喋ってしまうな。
「それで?これは何の肉を使ってるんだ?肉を貰うといってもここにゃいろんな種類の肉塊があるぜ?」
あれ?ここって酒場だよね?
目の前に出てきたのは、もう本業を肉屋にした方がいいぐらいんじゃないかってぐらいの鶏肉?のような肉たちだった。
…合計3kgぐらいあるんじゃないの?
「この焼き鳥にはコカトリスの肉を使っています」
「コカトリスか。だからこんな歯応えがあったんだな」
「やっぱりこの地域でも魔物ちゃんは食用だったりするんですか?」
「よく知ってるな。市民たちでは未だに俺たちみたいな酒飲みたちは酒に合う食い物であればその料理の素材なんて何でもいいって考える奴が多いからな」
へー。大雑把な人が多いんだな。
「コカトリスの肉はさすがにないんだが、代わりになるような肉ならある。最近市場に出回っている『
「たしか山のほうにいた魔物だったか?」
「ああ。こいつならコカトリスのような締まりのある食感だし手に入りやすい。今1番おすすめだな」
…この人本当に酒場の店主なの?
絶対に肉屋さんの方が向いてるって。
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