第145話 潜入作戦開始
「この度の功績、よくやった。冒険者リュウジよ」
「は、は、は、はい!ありがたきお言葉!」
パチパチパチパチ。
今僕たちは再びジェミフ皇帝の前に謁見しに来ていた。
「して、シリヤスよ」
「ははぁ!」
「お前が所属しているアウトル殿の工房は勇者の装備を作るそうだな?」
「光栄にも勇者様直々に御指名いただき制作に取り掛かろうと思っているところにございます」
「…そうか。このリュウジが俺に献上したオリハルコン鉱石。アウトル殿の工房に任せようと思うのだが」
「ほ、本当でございますか!」
「あぁ。この際その他の鉱石も少々そちらに引き渡そうと思うのだが」
「陛下!それはいくら何でも…!」
「フフフフ…。まさかここで陛下の御賛同をいただけるとは…!」
うーん…。何だか劇を見ている気分だな。
オリハルコン鉱石を手に入れた後ジェミフ皇帝に報告しに行った時に聞いた話では、調査の結果、この国で皇帝の次に偉い元老院という組織のトップ全員がアウトル商会から賄賂を受け取って不正みたいなことをしていたらしい。
皇帝はそのことを知ると元老院の息のかかっていない国の偉い人たちにこのことを共有して、元老院の人たちをシリヤスさんと一緒に追放しようとしているのだとか。
今この場にいるのは僕たちの他にジェミフ皇帝、元老院のお爺さんたち、シリヤスさん、ジェミフ皇帝の息がかかった人たちなのだが、元老院の人たちとシリヤスさん以外の人たちは全てのことを知っているので、数人はシリヤスさんたちの何も知らずに大袈裟に喜んでいる姿に笑いを堪えきれず、プルプルしている姿が見えた。
「けっ!シリヤスの野郎何も知らずにバカみてぇに喜んでやがるぜ。滑稽だな」
「しっ!嬉しいのはわかりますけど静かにしてないと別の意味で殺されますよ!」
アウトル商会の不正の証拠を掴むためには今回の潜入作戦を絶対に成功させなければいけない。
僕たちグレイト商会にとって初めての国外支店のためにも!
「お任せください、陛下!このシリヤスが必ずや勇者様に相応しい装備を御用意してみせます!」
「うむ。頼んだぞ」
◆
〜アウトル商会 シリヤスの視点〜
フフフフフ!
ついにこの時がきました!
ドワーフの王、ジェマフ皇帝に私のことを認めていただけるその時が、ね!
今まではガドウのようなふざけた奴の影に隠れてしまっていて正当な評価を受けることが出来なかった…。
しかぁーし!
これからはそんなものを気にする必要はない!
「ギャッツ」
「はっ!」
「急ぎアウトル商会に戻って勇者様の装備制作開始の指示を」
「承知いたしました」
材料であるオリハルコン鉱石を手に入れたのが勇者様以外の輩というところは気に入りませんがまあこの際いいでしょう。
私の心は寛大なのです。
「フフフ、元老院の方々も皇帝からの信頼を取り戻すために随分と必死になっている御様子。滑稽なものですね。そろそろ見限らなければなりませんかねぇ…」
まあそれも勇者様の装備を完成させてから考えるとしましょうか。
フフフフフ。ああ、笑いが止まりませんね。
ここから私の本当の人生が始まるのですから!
◆
〜リュウジの視点〜
「ここをこうして、あっちをそうすれば…よし!」
『ピピッ!ガガガガガ…』
「おお!繋がったぞ!」
「やった!作戦は順調みたいだね!」
皇帝様との謁見が終わった後、僕たちは泊まっている宿屋である黒鉄亭へ戻って鉱石類を積んだ荷馬車に取り付けたバルコーダーのアイシィーワンとの接続を試した。
アイシィーワンというのは地球でいうところのICレコーダーみたいな習性を持つ魔物ちゃんのことだ。
バルコーダーが放つ魔素を感知する用に作られた魔道具で感知し、音声を受け取ることができるらしい。
『おい!ノロノロするな!さっさと運ばないか!』
「「「!!」」」
『へ、へえ!すいやせん!』
『まったく…やはりドワーフ族は図体がでかいだけでたいして使えんな!』
『まったくだ。まだ獣の亜人たちの方が働くぞ』
通信を繋げていきなり聞こえてきたのは多分荷馬車を運んでいる最中の音声だ。
声から察するに2人のアウトル商会職員が奴隷の人たちに荷馬車を運ばせているのかな?
「ちっ!胸くそわりぃ」
「なんて最低なんすかね!」
「リュウジの旦那!いますぐこいつらの本拠地に乗り込みましょうよ!」
「ダメだよ!そんなことをしたら作戦を立てた意味がないじゃない!」
確かに聞いていてあまり心地の良いものじゃないけど、下手に動いちゃえば助けられた人も助けられなくなっちゃうかもしれないじゃん!
「ミングよ。今は耐える時。ひたすら辛抱に辛抱を重ね、時が来たらその気持ちを解き放つとよい」
「ガッハッハ!信綱殿の言う通り!こういう場合だからこそ冷静に且つ迅速に動くことが大切なのですな!」
この2人がそういうことを言うと何だか納得できるよね。
とにかく、今は確実に作戦を遂行するために準備を進めないとね!
◆
〜???の視点〜
むう?
……ほう。どうやら久方ぶりに70階層まで到達されたらしいぞい?
え?まだたったの50年?
…ま、まあそうとも言うがな、人間族からしたら50年は長い年月じゃぞい?
う、うおっほん!と、とにかく!
ワシの言いたいことは人間族の中に力を持つものが現れたということじゃ。
え それが何だって?
あれじゃよ!ワシらの友人から託されたあれを渡す相手が来たかもしれんってことじゃよ!
察しの悪いやつじゃなぁ…。
…ひっ!
何にも言っておらんよぉ!落ち着けって!
何はともあれもしあれを渡すときが来たらワシらもまたあの時のように楽しく語り合ってみたいものじゃの。
お主もそう思うかえ?
ワシらのたった1人の主にして唯一無二の友人。
勇者『ミケラルド』よ。
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