4.28
私は彼らの期待に応えるべく頂戴した枡を掲げ「いただきます」と言うと口に中身を流し込んだ。それは鼻水のようで汗のようで唾液のようで、この世のものと思いたくない酒の味だった。不愉快が凝縮された高濃度の精神性毒素が素早く身体に浸透し、アルコール由来ではない吐き気が催され、意識を保つのに苦労した。
「顔色が悪いね。まだまだ酒はあるのだけれど、控えた方がよさそうだね」
呆れた顔をして枡を寄越した三流役者が私を言葉の裏で侮蔑した。怒る事も嘆く事もできない私は枡を返却し座席に戻る。嘲笑と冷視を一身に受けたせいか不調の拍車がかかっており、胃の中の物が漏れ出ないためには努力が必要だった。
「大丈夫かい。大分無理をしたようだね。申し訳ない。奴には二度とこのような真似をしないようきつく言っておくよ」
座り直したところに肩を叩かれそう言われた。誰かと思えば私をその酒席に招いた同僚だった。以下は当時の心境である。
遠方で見物していただけの人間がよくも言った。さも私の味方であかのように「きつく言っておく」などとのたまいやがって。下劣もいいところだ。声をかけられた時は見抜けなかったが、お前さん、とんだ卑劣漢だよ。影で大木への批判を繰り返し嘲笑するだなんて恥ずかしくないのか。私にしてみればお前さんも大木も等しく下等だよ。大木といえば私に酒を渡してきたあの三流コメディアンもどき、既視感があると感じていたが、中身のない演説が大木にそっくりではないか。学がない分大木より下まである。それでよく奴を批判した物だ。個人的な価値基準の中では、まず底辺に虫がいて、その下にゴミがあって、更に毒素が占めているところに大木が陣取っていて、そこからようやく下方にお前さんが見えてくるのだ。何を勘違いしたのか自分がユニークであると思い違いをしているみたいだが、見ていて痛々しいばかりで、誰も彼もお前さんを特別だなんて思っていないのだ。哀れな奴!
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