4.25

 少し前なら私も彼らに合わせて嘲笑に一口添えていただろう。大木に対しては批判しかなく、どうあっても奴に肩入れするなどといった真似をしようはずがない。いついかなる時も、私は奴の敵なのだ。

 なのにあの場に限ってどうして冴えた嫌味の一つもなく私は黙りこくってしまったのか。これまでの不満を並べ立て、仲間の証として悪辣な言葉で大木を評したかった。それができなかった。私は大木を酷評する事が叶わなかったのだ。



「君はどうだね。普段から付き纏われているから、今くらいの調子がいい塩梅なんじゃないかい」



 ぎゅっと口角に力を入れて私は精一杯の笑顔を心がけた。閉じてしまった喉から一所懸命に「ははは」と声を上げてやろうと必死だったが、ただ笑っているという行為を真似ただけになってしまった。同僚達がどのような目で私を見ていたか。ははぁ。彼、さては大木とお友達なんだろうな。と、本性を隠し蔑んでいたかもしれない。しれないではない。きっとそうだ。だからこそ、以降、彼らは大木についての嘲をやめたのだろう。私に聞かれたらきっと本人に伝わって面倒な事になるぞと推察し、暗黙の内に示し合わせて一様に口を噤んだのだ。そうならそう言ってくれれば私とて流暢に違うと反を示して同じ気持ちを共有していると証明できたのに、彼らは口を閉じたのだ。その時点で私は大木の同族であると認識され、腫れ物、厄介者の類であるという判決が下ったのである。彼らの規定で開かれた裁判は彼らの規定により裁きが決まり彼らの規定に則った刑罰が与えられる。私は既に囚人であり大変惨めな思いをしていた。誰と話しても間が持たずににやにやとされるだけの残酷な時間が続き、酒を飲むのも辛く、けれど飲まなければ正気を、いや、正気でいられなくなるために私は苦しみの中で酒を飲み続けた。誰が何を言っているのか分からなかったが、私が一言も発していないのは事実で、酒ばかりが胃に収まっていくのだっだ。

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