4.24
その時いたのは四、五人だったと思う。声をかけてきた同僚の名前さえ忘れているのだから他の人間がどのような風体でいたかなど記憶にあるわけがない。道端に野良猫が数匹いたとして、正確な数と柄をいちいち覚えているだろうか。私にとって彼らはそんな認識だった。
彼らは無闇にはしゃいでいて少し耳障りだった。時折りなにか話を振られたが、聞いていなかったり内容が分からなかったりしたため曖昧に応えるに留まる。「聞こえません」とか、「何を仰っているのか要領を得ません」とか言うのは気苦労に思えて、成立しない会話を交わした。それは酒場へ向かう道中、酒場に入った後も同じで、私などいなくとも彼らはずっと笑っているのだろうと思った。私は一向に彼らの輪に入れず、近くにいるのにも関わらず疎外されていたのだ。大木と酒を飲んでいた時の方がまだ口数が多く、愛想とはいえ口元を緩めていただろう。私には同僚達が共通して持つ意識に触れられず、ふわふわとしたまま一緒にいるふりをしていなければならなかった。
そんな中、誰かの悪口だけは私にも認識する事ができたのだった。
どのような組織であっても人が集まれば他者への批判は噴出するもので、酒の席ではその手の話が盛り上がる。それ自体に良し悪しはなく、私としてもどうでもよかった。彼らが文句を言いたい理由も分かるわけだし、陰口を叩くのはいけないよと小さな道徳心を発揮する気も筋合いもない。言いたいだけ言わせておけば溜飲も下がるわけだから、放っておけばいいと考えていた。けれど、誰かが大木について触れた際、私は一瞬ぎくりとしてしまった。
「大木の奴、近頃はめっきり大人しいね。うるさくない反面、見せ物が減っちまったようで物足りない」
一斉に笑いが起こる中、私は凍りつく。
不思議な事に、本当に僅かな動きさえ許されず、雪像のように固まってしまったのだった。
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