4.23
会社を出ると、同僚と他何人かが既に待っていて談笑していた。
「やあ、お疲れ様。今ね、丁度君についての話をしていたんだよ」
人のいない所で好き勝手に喋るなど不愉快だったし、それをあえて伝えてくるところも気に入らなかった。私は恐らく怪訝な顔をしていたと思う。
平素であれば知らぬふりして馬鹿みたく微笑しながら苛立ちを抑えていただろうが、大木が頭に居座っている事で虫の何所が悪く、あえて表情に出してしまったのだと思う。自分の顔は見えないから断言はできないけれども、きっと軽蔑したような目をして同僚達を見下げていたに違いなかった。私がその時同僚を侮蔑していたのは紛れもない事実である。
とはいえその事実も、私にだけ認識される閉ざされた事象だったかもしれない。
「皆ね、君には一目置いてるんだ」
同僚は終始変わらず穏やかなまま私と向かい合っておべんちゃらを並べた。私の侮蔑を含んだ視線は彼に届かなかったのだ。
彼の言葉が虚偽であれ事実であれ礼を失しているという点においては疑いようもない。しかしそうと分からないものだから、殊更に私を好評していると白々しくも申し伝えてくるわけである。言葉の中身が好意的であったとしても、どうしてそれを知る事ができようか。こちらの預からぬ所での言われようなど碌なものではない。きっと陰口で沸き立ち、いざ本人が目の前に現れたら「いやいや、君については一廉の人物であると噂しているのさ」と厚い面の皮でのたまうのだ。恥知らずにも!
筆が乱れてしまった事をお詫びする。
実際のところ、彼らが私に対してどう思っていたかなど承知できるはずがなく、別段悪口を叩かれていようが、本当に賞賛していようがどうでもいいのである。この不安定な感情の起伏はやはり大木に起因していて、私に無意味なフラストレーションを与えているのだ。考えてもみてほしい。同僚は最初から、私について皆で話をしているといった旨をしっかりと明かしているのである。その時は寧ろ誇らしく喜ばしいくらいなものだったのに、大木を目撃してからどうもおかしい。当時の私はその異変を把握しているものの、解消のあてがないため同僚達を悪様に腐していたのだと思う。そして今も、私はあの時と同じ気持ちになっているのだから、不思議なものだ。
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