4.22
そんな事気にせずともよく、私がいつ誰と酒場に行こうが自由であり、その意思をどうこうと指図する権利は誰にもないのである。大木などに考慮する必要などどこにもない。
私はその事実を掲げてて、思考から大木について排除するよう努めた。綺麗さっぱり忘れて、同僚と笑い合い馬鹿な話を楽しむ場面を想像し、大木の入る余地を与えないよう無理やり頭を動かして、新たにできた縁が大切なものだと、それ以外は無価値であると言い聞かせた。けれど、忘れようとする度に奴のあの、幼稚なくせに皺ばかり一丁前な不自然で気色の悪い表情が影絵のようにくっきりと浮かび上がるのだ。気に入らない人間であればある程記憶に深く刻まれるという経験をこれまで何度もしていたが、どうやら大木も例に漏れず私の脳に居座るようだった。短い人生で嫌いな者について長く考えなくてはならないというのは生の不条理である。不条理とは、悩むだけ無駄であると分かっているのにどうしても悩まなければいられない事象であって不可避な不幸という他なく、対処のしようがない。仕方なく私は想像の中にいる大木について罵倒を繰り返し憂さを晴らした。本人に面と向かって言えればというもっともな意見については既にできないと何度も結論を出しているため触れない事にする。
私の中の大木にかける文句がつきかけてきた頃、ようやく終業を報せる鐘が響いた。その日、大木の声は一度も聞いていない。それどころか影も潜んでいてどこにいるのかさっぱりだった。遠くでこちらの様子を伺っていた以来彼を視認する事叶わず、雲隠れでもしたのかと勘繰ってしまうくらい存在があやふやだった。彼にも与えられた職務があるはずだが、それをどうしたのかは不明である。誰かが代わりに手を付けて残業の憂き目にあったのかもしれないが、私に影響が及ばなかったため、確認のしようがない。そんな事よりも不在となってより強烈に彼への関心が深まってしまったのはいうまでもなく、私はどこか不具になっていた。
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