4.21
辛気立ち込める話を聞いていると自然こちらも暗澹鬱屈としてくる。大木程度の戯言など取るに足らない瑣末なものだと思っていたが、長く続けば影が落ち、精神の低迷を余儀なくされた。
「どうですか今夜。たまには一緒に」
そんな風に、まったく参ってしまって仕事机の上に溜息を積み置いている私を見て気を遣ったのだろう。同僚の一人が設けた酒の席に、来賓としてお呼ばれに預かった。それまでずっと大木の介護を任されていた私はそのお誘いが大変嬉しかったが、無遠慮な人間という不名誉を授かりたくなかったがため、二つ返事で快諾したいところを「よろしいのですか」と遠慮深く聞き返してみせた。
「勿論さ。君と話しをしたい人間もいる事だし、是非顔だけでも出してくれると嬉しいんだけれどもね」
飛び上がりたい気持ちをぐっと抑えと「それでは」などとすかした態度を取って平然を演じた。本当は同僚と握手を交わし、私がどれだけ大木のために不要な苦労しているか語り尽くしたいものだった。事務所内でなければ、きっとそうしていただろう。
「それじゃあ終業後に」
涼しげな顔をした同僚はその風貌に見合った爽やかな足取りで自席へ戻っていった。私と違い、彼の中ではいつもの宴席の賑やかしが欲しかっただけなのだろう。何事もなく振る舞う彼の姿に寂しさと憎しみを向けてしまったのは私の不徳故である。彼は何も悪くない。
悪いといえば、間が良くなかった。私が同僚と話して入れところを大木がひそりと覗いていたのだ。後ろめたい事などないのに罪悪感が生まれ、心音から嫌な鼓動が聞こえた。きっと大木は、その日も私を連れ出して自身の惰弱さを肴に酒を飲むつもりでいたのだろう。それがご破産となり、どう夜を過ごすつもりなのか。また一人で酒屋に居座るのだとしたら、酷く気の毒に思えた。
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