4.20

 大木においてもそれは同じかも知れず、私が貴方に親愛を抱くのと等しく特別な想いを寄せていたのかもしれない。友情か、それとも愛情か。

 彼の心の中で私がどう位置付けられていたのか。この先二度と顔を会わす機会はないが、もしもそんな日が訪れたら聞いてみてもいいかもしれない。興味など微塵もないが、他に話題がなく、黙っていたらそれこそ何年ぶりかに奴の独演会に傾聴しなくてはいけなくなる。歳を重ね以前より余命も目減りしている現在において、辟易とする講演を拝聴するのは避けたいところだ。そも、もう一生分耳に入れているではないか。もはや飽きた。二度と経験したくはない。

 そうとも、私は結局奴に好かれ、離別するまでの間ずっと付き合わなければならなかったではないか。またも同じ任を与えないでほしい。

 なんなら貴方が代わりにやってみたらどうだろうか。私のような人間の手記を読んでいただけているのだから、存外適材かもしれないよ。


 おっと、申し訳ない。つい皮肉を向けてしまった。過去の恥を思い出し、どうにも受容しきれず八つ当たりするような形となってしまった。心より詫びると共に、続きを記そう。貴方も待ってくれている事だ。

 

 申し上げた通り、大木は自身の惰弱を吐露し続けた。そのせいか厚顔だった面の皮は徐々に削げ落ちていき、根拠のない自信や不敵な態度が沈黙に取って代わられるようになっていった。私以外の誰かとお喋りする際はその限りではなく、相変わらずの無礼と無知を晒して失笑を誘っていたのだが、自分から声をあげる事は少なくなり、特に酒が入るともう弱音しか吐き出せない衰弱ぶりを見せていた。それがあまりに痛々しいものだから、「そんなに塞ぎ込まなくとも」などと労わるふりをしてみても彼には効果なく「仕方ないのさ。自分に目を向けていると無性に情けなくなってくる。僕は早くに死んだ方がいい」と更に落ち込んでいくのだった。さしもの私も、それ以上かける言葉がなかった。

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