4.18

 その頃、大木と私は懇意かのように見えていたと思う。

 会社の中では都合の度一言二言交わし、昼食になると共に卓を囲って、週末は酒を酌んだ。

 あの居座り事件以来大木は私に長っ尻の強要をするような真似はせず、徳利を空にしたら「さぁ行こうか」と綺麗に飲むようになっていた。唾で料理を汚す事はままあったが、それでも最初に見せた飛沫豪雨よりはまだましとなり、許容はできなかったが見過ごせるようにはなっていた。当初に感じた不快感は幾らか和らぎ、付き合ってやってもいいかと、私は考えを軟化させていた。



 けれど拭えぬ感情がある。抗えない情動がある。私は大木について、覆せない拒絶反応と忌避をずっと持ち続けていた。




「どうだい。今夜も一杯。なぁに、明日は休みさ。酔っ払っちまっても構うものかい。ま、僕は仕事があろうが戦争になろうが幾らでも飲んでやるんだがね。勤労意欲に富む模範的プロレタリアートの君はお仕事が大好きとみえるから、気を利かせてやっているのさ。だから付き合いたまえよ」




 こうして声をかけてくる大木には「是非とも行こう」と快諾していた。嫌な顔をせず即断する訓練を行い、私は即時に二つ返事ができるようになっていた。この時の心中は穏やかではない。

 私は大木に呼ばれる度嘔吐を我慢していた。胃から逆流してくる酸や吐瀉物を必死な思いで押さえ込み、苦しんでいる素振りもせずにこやかに受け応えていた。なぜそんな無益を働くのかと問われたらやはり小心というのがあった。私は大木如きであっても嫌われる対象にはなりたくなく、喧嘩もしたくなかった。仲良しを演じて得られる表面上の平和を維持するよう、私の心が働くのだ。

 他者に拒否を示すよりも迎合し和平する道を選んだ私は身中の虫である。戦えない人間の矮小な生き意地を噛み締めるのは、随分と苦々しく感じた。

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