4.17

 くどいようだが私は彼と仲良くなりたいわけではない。天敵の一人であり、忌避すべき悪辣を振るう妖怪の類と認識している。彼とは話したくないし顔も見たくない。遠く離れたところで悪口を綴ると自然に微笑がもれるくらいには不良好な関係であった事はここまで読んでいただいてご理解いただけたと思う。また、そのような相手に私が笑顔を提供せずにはいられない事も。

 私とてまぎれもない本心をすっかり曝け出したいと考えているに決まっている。誰にも気兼ねなく浮かんだ感情を包み隠さずに伝えられたら幾分気楽に過ごせただろう。他者の言動が干渉しない、傲慢な精神構造であったならこんな暗鬱とした手記など残さず、外へ出て他の誰かと同じように活発に、時に恥知らずに、なにかにつけてめでたいめでたいと言って騒ぎ倒していたように思う。私がそうならなかったのは、ひとえに生来の卑屈が影響しているからに他ならないからだ。

 私はこの世界でだれよりも卑しく屈し、ご機嫌を伺う人間であるという自負があった。罪などなく、被害者であるにも関わらず大木に謝意を表明したのはそういうわけである。

 そこで終わっていればいいのに、私は当時の鬱屈とした感情を書き残して貴方の目に留めている。自慰行為を見せつけるのとそう変わらない下衆で破廉恥な行いであると自覚はしているけれども、私は誰かに私の感じた不条理や不愉快をお裾分けしたいのである。そうすれば過去の屈辱や羞恥を綺麗さっぱり拭え、新たな私として世界に存在できると思ったのだ。効果は未だ見て取れないが、それでも変化の兆しはかんじていて、私に希望を与えてくれている。これも貴方のおかげだ。ありがとう。本当に、ありがとう。あぁ、勘違いしないでくれよ。貴方に向けた感謝は、大木などに示した上っ面の友愛とは程遠い、金科玉条の宝物に匹敵する感情なのだから。いやまったく、大木のような馬鹿と比較して大変申し訳ない。奴との因果もそろそろ締め時だろうから、どうぞ、続きを読んでくれたまえ。

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