4.15

「馬鹿を言っちゃいけないよ。今日は夜通し飲もうと決めたじゃないか。この酒宴は君が主役なんだから、いなくなっちゃあ困る。さぁ、座りたまえ。まだ酒があるんだ。それを空にしないままに帰るなんて話は通らないよ」



 お猪口に注がれた酒を見ると小さな波ができていた。何事かと思えば大木が小刻みに足を揺らしていたのだった。がたがたと足を鳴らす動作はますます子供じみていて、癇癪を起こす前の幼児に似ていた。付き合うのも馬鹿らしく、私は金を多めに払って「それじゃあ」と手を挙げて一方的に別れを告げた。



「待ちなよ。止まれったら。君、僕を置いていくのかい。なぁ、それはあまりに友達甲斐がないってもんだぜ」




 友達になったつもりのない私の足は止まらない。彼の嘆きは微塵も刺さらず、一層遠くへと距離を置きたくなるものだったから振り返りもせず扉を引いて決別とした。こだまが響く店を後にして暗闇に出ると嫌味のように星が明るくこちらを見ていて腹が立った。




「あぁ、やっこさん一人で出ていらっしゃったぜ。友達を置いて、薄情な人間だよ」


「まったくだ。それに見なよ。まるで一人で生きてるような目をしてやがる。木の股から産まれてきたつもりかね」




 星達の声は正真正銘幻聴であり、私の酩酊具合を測るのに役立った。私はいつの間にか酔っ払ってしまっていたのだ。自覚すると、気怠くて立つのも億劫で、ふらふらと不安定に進んでいく自分の身体が借り物みたいにしっくりこなくて、耳は遠く、目は狭まり、無事に帰れるのか不安になる一方、なんとかなるだろうと妙な気楽がぽつぽつと頭の中で弾けたりしていた。典型的な不覚者の症状である。結果として無事部屋に到着したはしたが、何度か転び無数の擦り傷を負う事となり、人生の恥がまた増えたのだった。

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