4.11

「それにしたって君は違うね。周りの馬鹿どもとは比べ物にならない」



 私に対してそんな賞賛をしてきたのは酒のあてに頼んだ刺身が運ばれてきたのと同時だった。てっきり酔いが回ったのかと思ったが、依然不気味に輝く大木の瞳からは正気を保っている事が見て取れる。元々異常寄りな人格の持ち主であるため、正気の状態の方が一層危険なわけで、私は用心を怠らず「そうでもないさ」と謙遜してみせると、やはり彼独自の価値観に則った独特な口上を聴かせるのだった。


「君、そんなつまらん遠慮を言っちゃいかんよ。殊勝なのは結構だけれどね、そうきっぱりと主張されると、断言した僕が馬鹿みたいじゃないかい。こういう時は少しくらい図太く、“いやぁ嬉しいですねそう言っていただけると"なんてお調子よく喜ぶものだよ。それに世辞ってわけじゃないんだぜこれは。君にはどうも雰囲気がある。凡百に埋もれてなお輝く存在感があるんだ。例えるなら、女の子が持っている玩具箱に本物の宝石が入っているようなものさ。余程の馬鹿じゃなければ嫌でも気が付く。もっともこの世界はその余程の馬鹿ばかりしかいないわけだけれども、それはいい。君ね。自身の才能を潰しちゃいけないよ。君には稀有な能力があるんだ。それに目を向けないまま無為にしてしまうなんてのは大変勿体無い事だし、なにより才ある者には才を咲かせる義務があるんだぜ。それを疎かにしちゃあね、君、いかんよ」



 愛想笑いを浮かべつつ、私は困った。

 また、恐ろしい事に、悪い気がしなかった。

 大木が始めた突然の賛辞により、私には根拠のない喜び、愉悦が生まれたのである。自身の中に存在している、存外軽薄な自尊心と自己顕示欲が撫でられ、彼に少しばかり気を許してしまいそうになったのだ。これは、誠に、大変な事だった。

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