4.1
川崎も尾谷も自分を価値ある人間のように見せようと必死だったが、身の丈に合わない装飾はいずれ剥がれ落ちるものである。彼ら二人も例に違わず、領分以上の人間性があるように振る舞ったりするから痛い目に逢うのだ。
だが、そうだ。多くの人はそうなのだ。自分以外の何者かに憧れ、自分ではない何者かに変質せしめんと企て、自分ではない何者かのようになっていくのだ。そこにいて、喋り、動き、飯を食い、糞を放って、眠り、起きているのに、誰でもない自分自身だというのに、当の本人はまったくの別人になったつもりでいるのだ。彼らは本人のままでは我慢ならず、輝かしき誰かになりきって立ち振る舞い人々の羨望を求めるのだ。退屈な、まったく見どころのない一生から逃避するために!
貴方はどうだろう。貴方は、貴方だろうか。それとも、貴方も貴方以外の誰かになろうとしているのか。なってしまっているのか。そうなのであれば、私はその生き方を勧めはしない。貴方は貴方であり、私の友達ではないか。だからどうか、貴方は他人などに目もくれず、唯我独尊が如き身勝手でいてほしい。それが貴方であり、私の友達ではないか。
なるほど。「君に定義づけられるまでもなく私は私なのだが」という言い草かね。貴方らしい物言いだ。
好いじゃないか。私は貴方のそういうところが気に入っているんだからね。けれどもね。皆、貴方みたいに自己を確立しているわけじゃあないんだ。先にも書いたのだけれど、誰かは誰かとなり、自分自身との決別を果たしたくて堪らないのだよ。
よろしい。
貴方がそんなにもいうのなら、私はそんな人間の事を文章で語ろう。無論、逃げ出したりはしないだろうね。
あ、いやいや。これは野暮だったね。貴方はもう、私の最後の一文を確認しなくてはならないのだから。
では、ご覧いただこうか。
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