3.21

「君って奴は本当に大したプレイボーイぶりだよ。いつからかふらっと店にやってくるようになって、それで見事に彼女を射止めちまうんだからおみそれするね。いったいどこでどうたらし込んだのが是非ご教示いただけないかな。どうなんだい。なぁ、教えてくれよ。一緒に酒を注いだ仲だ。教えてくれたっていいじゃないか。どうなんだい」




 どうなんだいと言われてもどうしようもない。返答もなく川崎と目を合わせるばかり。気の利いた返答を投げられなかった私は、すぐ近くにいるミキちゃんの吐息を耳に受けながら彼を静める方法を浮かべていったが凡庸な知性しか持ち得ておらず、一つも良い手段が形作られる事がないままごもごとしていると、川崎の怒りが更に熱せられていったのだった。



「畜生!」



 これまでにない怒声で川崎は捲し立て始めた。嫌味や皮肉がない、純心からの憎悪が私とミキちゃんに向けられていた。彼が築いてきた人格と印象が急転、感情のみを垂れ流す汚物へと変わり果て、哀れであった。紳士とはかけ離れた人物ではあったがミキちゃんの前では最低限モラルの仮面を被り、良識人たらんと演技を続けていた時間が終わりを迎えたのだ。





「どうして君はそうなんだ! どうしてなんだ! なぁ!」


「俺が悪いというのか! いったい私が何をしたんだ! お前たち二人にどうして馬鹿にされなきゃいけない!」


「阿婆擦れ! 男娼! 生ける淫本どもめ! 地獄に堕ちろ!」




 返答のしようのない嘆きは続き、慟哭とも咆哮とも聞こえる響きがこだまして、最後は絶叫と評するのも生温い、凄まじい劈きを残して川崎は姿を消した。残された私とミキちゃんは何を言うでもなく座り込んでしばし放心。僅かに残った酒が少し光って、夜は終わりを迎えた。

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