3.16
空っぽになった安酒の空き瓶は見ているだけで乱酔してしまいそうだったし、実際がばがばと身体に入れてしまっていたために若干危うい状態だった。それでも理性を保てていたのは緊張によるもので、川崎と店への警戒が解かれないために私は意識をしっかりと定めて物事を考えられていた。油断も驕りもなく、往来を歩く泥棒が警察の目を気にしながら歩くのと同じように用心深く座り続けていたのだ。
「川崎さんすみません。今夜は付き合っていただいておりますので、新しく入れた酒は私が持ちます」
払いたくない酒代であったが払わないわけにはいかない。私が飲み、私が空にした酒の代わりなのである。先述した道徳心から、私は彼の資産を弁償しなくてはならなかった。
「そんな事はよろしいですのに、いや、けれど、大変ありがたく嬉しいお気遣いでございます。この度はご好意に甘えさせていただきます。それにしてもまったくご立派な方だ。そこのできそこないにも器量を見習ってほしいもんです……おい、聞いているのかい」
「勿論じゃないですか。素敵な方ですね。でも、兄さんも良い人よ」
「俺なんかはどうだっていいんだ。それに、お前なんかに褒められたってちっとも嬉しくないね」
「照れちゃってる。可愛いんだ」
「やめないさい。俺は本気で泡肌を立てているんだぜ。馬鹿な事はお言いでないよ」
また二人の話が始まり、私はやって来た新しい酒を一人で飲み始めた。今度は川崎も遠慮なく鯨飲し始め、あっという間にボトルがなくなっていく。その間も川崎と猪の会話は続き、私は一人で酒を進めていって、とうとう前後不覚になってしまったのだった。気がつけば自室で目覚め、不愉快な昼を迎えた。頭痛と吐き気によってもたらされる後悔は昨晩の記憶を一層強く嫌悪する要因となり、私は一日中布団の中で悪態をついていた。
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