3.12
人の美醜についてどうこうと品評する気はなく、またその資格も有してはいないが、茶褐色となった毛髪や潰れて顕となっている鼻腔を正しく表現するには猪という言葉以外にない。失礼千万この上ないが、私は彼女に人間の姿を重ねる事ができず、ともすれば妖怪といった方がしっくりときて、今でも内心人知れず遮文荼と揶揄しているのは大いに反省し謝意を表明したいところではある。
この罪を共有するのは私と貴方で、私の贖罪意識を知るのも同じく二人きりである。貴方は既に私の恥部に触れ続けているが、そろそろ嫌になってきた頃ではないか。エゴイズムばかりではなくルッキズムまで見せてしまったからには酷く軽視されているだろう。当初こそプロレタリアートの亜流を気取っていたような内容が、ここにきて鍍金が剥がれ落ち私の低俗性を書き並べるようなものになってしまって、お見苦しい限りである。けれど、どうか、ここまで読み進めていただいた貴方には続きを読んでいただきたい。私のこの極めて人間的な本性は貴方にしか見せられないのだ。それはそうだろう。公共の場で、「君は猪のような女だね」などと言えるわけがないし、吹聴するわけにもいかない。誰もが喉元まで迫り上がっていながら、決して口外に出してはいけない言葉がある。私が今記しているのはまさしくそれで、他人には教えられない醜悪なパーソナリティを晒しているのだ。それをこうして露悪的に書き並べ立てるカタルシスといったらない。文に起こし、誰かに読まれているかもしれないという現実が、私を罪の意識から遠ざけてくれるのだ。
貴方は「そんなもの、実際に誰かが読まなくても構わないのではないかね」と、勝ち誇ったお顔で仰るだろうが、まったく無粋ではないかね。確かご指摘はごもっとも。私自身も何度同じ事を自らに問いかけただろうか。誰が読んで何を思うか知る由もないのだから、誰かが読んでいるとすっかり信じてしまえば幸せである。それでも、私は貴方にこの手記を読んで欲しいと恥を承知で記しておこう。どうか、引き続き私の理解者でいてほしい。そうでないと、ちっとも続きを書いてやろうなんて気になれないんだから。
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