3.5
彼らのそうした性質は退屈への抗体として生じ、無自覚に進行、伝染する。もはや病理といっても過言ではなく、中でも川崎においては殊更に重症であった。一目限りの印象ばかりならば気付かなかったが、幸か不幸か彼とは何度か顔を合わす機会があり、その度に深刻な状態である事が解明されていったのである。
彼とは最初の出会いの後、再度言葉を交わしたのはやはりミキちゃんが商いする酒場であった。
「や、どうも」
例の如く一人で酌を満たしたり空にしたりしていると、随分気安く彼が肩を叩き、僕の座りに座したのだった。たった一度、たまたま席を同じくしただけなのに竹馬の友みたいな顔をして私に近付いてきたのである。
「お互い寂しいものですね。こうやって一人で手酌しなきゃいけないんですから」
私は自己憐憫に浸った覚えはなく、また、そうであったとしても川崎に吐露するなどあり得ないのだが、彼の方では私を哀れな人間だと独自の解釈で納得し、失礼にも同類と認定していた。それは彼にとって都合がよかったからというのもあるが、計算された手段でもあった。
「そんな事言わずに。お酌くらい注いだげますから」
「あ、そんなつもりはなかったんだけれど、せっかくなら」
案の定川崎はミキちゃんから薄い酒を作ってもらうと、また「幸せだなぁ」と漏らした。
「いやしかし、いいお店でございますね。そちらもそう思いませんか」
変わらず川崎はいやに親しい様子であって、私は愛想を浮かべながら「そうですね」と相槌を打つのだが、今後、この酒場の利用について考えねばならないと思案していた。特に酒が美味いわけでも気の利いた肴が用意されているわけでもなし、これからは別の店に行っても差し支えはなかった。しかし、罪を犯したわけでもないのに逃げていくのが気に入らなかった。私は誰に対しても清廉潔白だと証明できるのに、こそこそと怯えるようにして疎遠となっていくのが承知できず、知るもんかと決意して酒を煽った。
「あら、お早いですね」
空いた杯を見るや、ミキちゃんが再び酌をしてくれた。その時ふと横を見ると川崎が酷く退屈そうな顔をして電気ブランを舐めていて、言葉なく非難されているように感じたのだった。
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