2.9
このまま尾谷と栗山が結ばれて、大衆演劇の題目みたいな三流のシナリオを描ききって幕が降りたら、私は当て馬として観劇者からの嘲りに晒される事だろう。無関係の第三者はいつだって残酷に他人への評を下す。それは、先述した杉谷のエピソードに対して貴方が抱いた感想を鑑みていただければ大いに納得してできるのではないか。貴方が、微塵のやましさもない完全なる正義の哲学を発露させ「とんでもない事をいうな」と反論めされるのであれば、私は前言を撤回しよう。しかし、他者への慈愛、同情といった類から生じる公平性には少なからず侮蔑の感情が入り混じっているという事実をどうか忘れないでいただきたい。劣等なる他者への優遇とは、その者の欠落を明言しているに等しいのだ。多数と違い交われないからその溝を埋めてやるというのは、至極傲慢な思想であると自覚していただければ幸いである。
こういう理論を展開すると、貴方や貴方の友人は私を指差して差別主義者と糾弾するだろう。弁明はしない。確かに私は一種の差別主義を持って生きている。散々と喚いておきながら私自身、不自由な者に対しての施しは是非とも推奨すべきであると考えているが、同時に、そこに優越感や驕慢がないとは言い難い。誰かに対して「可哀想に」と思ったが否や、憐憫を隠れ蓑にした殺意が顔を覗かせ、もっと不孝になれと願ってしまうのだ。主観で申し訳ないのだが、これについては幾らかの普遍性、不滅性を持った心模様のように思う。いや、そう強く願う。
この思想が私固有の、あるいは少数に該当する浅ましさであると考えてしまうと耐えがたく、自覚した瞬間に狂人への一歩を踏み出してしまい、社会から隔離されてしまうだろう。社会的弱者を眺めて高揚するという下衆な趣向を私だけが有しているなど考えたくもない。故に、これから尾谷に起こる転落に対しても、皆一様に私と同じ感想を抱いたと思いたい。
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