第40話 王都攻略戦 2




 「本当に来たようだな」

立派な椅子に座る、でっぷりと太った男が愉快そうに笑う。おそらくこいつがラスカルだろう。


 蹴破った扉に直撃したのか、血を流して倒れている兵士が三人。大きな盾を持っている人と、剣を持つ若い兵士がラスカルを護るようにして立っている。

 

 ラスカルの隣に立つ、細身の男の前にも兵士が五人ほど剣を構えているところを見ると、護衛対象のなのだろう。


 「ラスカル、貴様が王を続ければそう遠くないうちに獣人国は帝国に飲み込まれるぞ!十五年もの間、一体何をしてきたのだ!」


 「何を言うかと思えば、くだらん事を言いおって。ガルシア、お前よりも充分に上手く国を纏めておる。王都を見るがよい。お前が王を務めていた頃よりも随分と栄えているではないか」


 「王都だけが国では無いのだぞ。王都から一歩出てみろ。どれだけの民が重税に喘いでいるか、貴様は分かっているのか?」


 「民が税を納めるのは義務だ。国を維持するために必要な事くらい、愚鈍な貴様でも分かるであろう」


 「民あっての国だ!貴様は民を重税により虐げ、国を私物化し、懐を肥やす事しか頭にない愚かな王だ。獣人国にとって貴様の存在は害でしかない。諸悪の根源は他でもない、ラスカル貴様だ!」



 「フン。そのまま死んでおれば良かったものを。大体、過去の亡霊が今更出てきて何になる。いずれにせよ、貴様らはここで終わりだ。おい、そこの亡霊共を片付けろ!」



 「ガルシア王はお下がりください。ここは我らにお任せを」

大盾持ちがガザルさんに突撃してきたが、強化の乗った蹴りで横にいなす。


 「なぜ貴方がここにいるのよ!」

明らかに女性の声だ。


 「俺にも色々と事情があってだな……」


 「事情って何よ!生きていたなら何故!」


 「母さん下がって!」

剣を持つ若い男が間に入り、剣を向け構える。


 「シェラの息子か。トウマ、この二人は俺に任せて他をやれ!」


 「あいよ!」

兵士を一人ずつ削っていく。連携が取れていようとも、この中に斧鬼やゼツのような強者はいない。全て倒し切るのに、そう時間は掛からなかった。


 「む、それ俺の剣だな。シェラから貰ったのか?」


 「煩い!逆賊め、俺が斬ってやる!」

剣の筋は良いがどう見ても実力不足だ。ガザルさんの相手にはならない。俺はそう判断し、ラスカルと細身の男を警戒する。


 「ライガ、少し待って……」

シェラが何かを言おうとしたが、ライガの声に掻き消される。


 「この……馬鹿にしてないでちゃんと戦え!クソッ!」

ライガの剣を容易く避け、少しずつ距離を詰める。実力差がありすぎて勝負にすらなっていない。剣を跳ね飛ばして頭に触る。

 「はい、残念。俺を斬るには十年早いぜボウズ」


 「もう、ライガ。人の話をちゃんと聞きなさいよ。この人は疾風のガザルよ」


 「疾風!?え……それって……え?」


 「そう、貴方の父親」


 「「は!?」」

その場にいた全員が驚いた。勿論、ガザルさん自身もだ。


 「え?こいつが俺の子供……?誰との?」


 「私と貴方に決まってるでしょ。なに馬鹿なこと言ってんのよ」

シェラがガザルさんの頭を殴る。ライガは複雑な心境なのだろう。二人を見ながらキョロキョロしている。



 「俺を無視するな!どいつもこいつもこの俺を馬鹿にしやがって。許せん!」

突然ラスカルが怒り出し、転がっていたライガの剣を拾った。



目の前にガルシア王が飛び出す。


(くそっ!油断してた。間に合わない!)


 「エリーの愛したこの国を、これ以上貴様の好きにはさせぬ。その命をもって、全ての民へ償うが良い」

剣を抜き、後ろに大きく引いた刺突の構えを取る。


 「ガルシア、お前はもう過去の存在だ。亡霊が俺の周りを彷徨くな!」

同じく剣を抜き構える。


大きく踏み込んだ迷いのない一撃が決まる。胸への刺突だ。ガルシア王の剣は真っ直ぐラスカルの胸を貫いた。ラスカルは膝を折り、座り込んだ。


 「なぜ、思い通りにならぬのだ……」

胸元を押さえる手の隙間から血が流れ出す。


 「民を、仲間を信じて助け合わぬからだ」


怨嗟の声を上げながら、ラスカルはその命を散らした。



 「いやぁ、流石ガルシア王だ。最悪の王ラスカルをその手で討ち取るとは」

細身の男が手を叩きながらガルシア王に近寄る。


 「私もラスカルには迷惑していたのですよ。消えてくれて大助かりだ。いやあ、良かった。これからはガルシア王、ぜひ獣人国を導いていただきた……」


 「グラマス、お前に矜持はないのか?」


 「私は貴方をずっと信じておりました!分かっていただきたいのです」


 「裏切ったのなら貫き通せ!最後まで敵として振る舞え!勝者に擦り寄る貴様の態度には反吐が出る」


 「そんな、私は初めから貴方の味方です。信じてください」


 「グラマス様のおっしゃったことは、全て嘘です!ここにラスカルと共謀していた文書があります!」

大臣室へ行っていたルオが手元の紙を広げる。



 「貴様ぁああああ!何のためにお前のようなゴミを拾ってやったと思っているんだ!」

顔を真っ赤にして、ルオに向かって走り出した。


 「ゴミはグラマス貴様だ!貴様のような奴が戦いを生むのだ。ラスカル同様、その命で償え!」

ガルシア王が背後から剣を突き差し、倒れたグラマスの首を叩き斬った。



 「長かった……とても長い戦いが、今終わったのだ」

血濡れた剣が手から零れ落ちた。




 「王宮に夥しい数の人達が接近しています!おそらく兵士達です!どうしますか?」

王の間の入り口からマコトが声を掛ける。



 「全員、俺と共に来てくれ」

ガルシア王を先頭に全員で王宮の入り口へと出る。




 「逆賊共から、王宮を取り戻せ!突入だ!」



 「静まれぇええええええ!!!」

ガルシア王が大声で兵士達を静止する。



 「な、あれはガルシア王ではないか?」「元王だと?」「なんだ?」

様々な声が飛び交う。ガルシア王を知る兵士達は困惑しているようだ。



 「聞け!獣人軍の兵士達よ!」


 「ラスカル王とグラマス大臣は、我らフリーデ合衆国が討ち取った!全ての戦闘行為を停止し、我がフリーデ合衆国軍に投降せよ!」


 「繰り返す。全ての戦闘行為を停止し、我がフリーデ合衆国に投降せよ。我ら国は違えども同じ獣人だ。暴虐の王亡き今ならば、共に歩む事が出来るはずだ!」





その日、バルザルム獣人国は、

フリーデ合衆国へと名を変えた――

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