第30話 強襲、リンド軍事施設
作戦当日、夜明けと共に森へと入った俺達は、ハク達親子の協力により、凄まじい速度で森を駆け抜けた。
風魔法を身体に纏い、森を一切減速せずに駆けていくお陰で、前回丸四日掛けて歩いた道を、陽が沈む前には駆け抜けてしまった。街が見えてきた所で、ハク達には町の手前辺りで待機しててもらうようにお願いして別れた。
町への入口を守護する警備兵達が、前回の倍以上に増やされており、バザム火山軍事施設の襲撃が大きく影響している様子が窺えた。
このまま、夜に警備を突破するのは困難だと判断した俺たちは、森に潜んで機を狙うことにした。
そうして夜が明けて陽が昇る頃、警備兵の交代が行われ、待ち望んでいた機が訪れた。
あの、警備兵隊長が顔を出したのだ。俺やガザルさんは軍事施設での戦闘で、顔が割れているし、ガルシア王は以ての外である。なので、ヨルダ王とマコトが警備と接触する事にした。
しばらくすると、パパド老人の所へと向かうはずの二人が戻ってきた。
「何があった?」
ガルシア王は険しい表情でヨルダ王に尋ねる。
「代わりに僕から説明します。どうやら、パパドさんが内通者だとバレたみたいです。僕らが前回リンドの町で、すれ違った獣人達の中に、僕達がパパドさんの家へ向かった事を覚えていた人がいたらしく、既にパパドさんは拘束され、警備兵隊長も明日には拘束されるだろうとの事です」
「先手を打たれたか…」
「でも、警備兵隊長が拘束されずにいる事が腑に落ちません」
マコトはノートとスマホを広げながら、状況の整理をしていく。
「良い着眼点だ。おそらく、パパドを拘束したという情報を餌に、俺達を炙り出す罠だろう。つまり、パパドはまだ口を割っていない、もしくは既に処分されているということになる。実行犯がガザル達だという事実まで辿り着いていないということだ」
「ということは、警備兵隊長は泳がされていて、近くで行動を監視する人がいるってことですね?」
ガルシア王は頷いた。
「今、我々が欲しい情報は、敵勢力の規模とパパドの拘束されている場所の二つだ。これらのうち、最低でも後者は絶対にすぐ知らねばならぬ。何か良い策があれば」
「なあ、マコトならパパド爺さんのいる場所が分かるんじゃねえか?」
たしか、スマホなら一度接触した人の位置が分かる筈だ。
「この後言うつもりだったんだけどね。既に調べてあるよ。街の中心部にある一際大きな建物の中で、拘束されているみたい。この建物の入り口に警備兵が四人立っているのを見ると、おそらくは重要な軍事施設なんじゃないかな?ちなみに、パパドさんが生きているのは間違いないよ」
「「何故分かるのだ?」」
二人の王が一言一句違わぬ言葉でマコトへ問う。
「簡単に説明しますと、このスマホという道具には索敵する力がありまして、ある程度の距離にいる知人が、どこにいるのかすぐに判ります。知人でない場合は、赤で表示されるので、敵勢力圏内にいる最大人数ならば同時に把握可能です
」
「とんでもないな。お主とそのスマホがあるだけで、戦局が大きく傾きかねんぞ」
ヨルダ王が驚きを隠さずに、興味深そうな様子でスマホを見つめる
「索敵の使える回数に限りがあったりするのか?使った瞬間、敵に悟られるような音や衝撃等はどうだ?」
「いえ、使用回数に限度はありませんし、一切感知されないです。その証拠に、今この瞬間も探知し続けていますから
」
「警備兵達は全部で何人だ?」
ヨルダ王がニヤリと笑う。あ、もう言いたいことが分かった。
「ええと、隊長除いて5人です。どうするつもりなんですか?」
「決まっている。全員昏倒させて町へと侵入し、軍事施設を襲撃してパパド殿を救出してしまえば良いのだ」
「それしかあるまい。よし、町が人で溢れる前に最速でパパドを救出するぞ。門の警備兵達は、警備兵隊長だけを残して、ガザルとトウマで制圧。隊長を含めた俺達六人で軍事施設を襲撃し、パパドを救出だ」
ガルシア王指揮の元、新たな作戦が開始した。
俺とガザルさんは矢のように門へ駆け出した。正面には警備兵隊長ともう一人。
警備兵隊長が最初に気付いたが、武器を構えようとも、合図を出そうともしない。協力してくれるのだろう。
だが、他の兵士が接近するこちらに気づき、声掛けをしてくる。
「そこの二人止まれ!ここから先は獣人国の領土である。正式な許可を…!」
俺が剣を抜くと、顔色を変えて槍を構えた。遅れて警備兵隊長も構える。
俺は突きを躱しながら、剣の柄でこめかみを殴り昏倒させた。
「ガルシア王を救出したのはお前達だな?」
警備兵隊長は短く問う。俺はその問いに頷く。
「俺の事も殴って気絶させろ。その方が自然だ。それに、お前達について行っても足手まといにしかならないだろうからな」
ガザルさんは背後から警備兵隊長の首に手刀を入れて気絶させた。俺達は、残りの兵士を片付けるため、二箇所ある警備門の高台を目指して二手に分かれる。
非常に短い時間で二人の兵士を片付けた俺は、急いで門の入り口へと戻ると、既にガザルさんが待っていた。
「片付いたか?」
「ああ。ちゃんと縛っておいたよ」
「よし、王に合図をしよう」
そう言って、ガザルさんが森の中に待つ三人へ手を振り合図する。
「警備兵隊長は?」
ガルシア王が俺を見た。
「自分から気絶させろって言ってきた。足手まといになるからって」
「ふむ。協力して貰いたかったが、致し方ない。これより、我ら五人で軍事施設を襲撃する!目標はパパドの救出。敵対する者は可能な限り殺さずに無力化せよ」
俺とガザルさんは、マコトの指示通りの場所へと向かう。まだ時間が早いからか、町の中には人気がなく静まり返っている。騒がれる心配がないのは幸いだ。
ガルシア王の時と同じで、役割を分けた。俺達は先に突入し制圧を、後続の三人は、ヨルダ王を先頭に後から侵入してパパド爺さんの救出だ。
目的の軍事施設は、門から一直線に進んだ突き当たりにあり、目の前の通りは開けていて隠れる場所はない。
俺達はギリギリまで歩いて接近し、ブレイブエールを詠唱する。ガザルさんにも強化が掛かったのを確認すると、ブーストを使えば一瞬で距離を詰められるギリギリの位置まで自然体を装って接近する。
警備で立っている二人の兵士との距離が、家三件分程度にまで差し掛かった瞬間、ガザルさんが剣に手を乗せる。合図だ。
「うおらァッ!」
一瞬で接近した俺達は、二人の兵士を剣の腹でぶっ叩き一撃で意識を刈り取る。殴られた兵士は、軍事施設の扉に激突し、扉は激しい音を立てて崩壊する。起き上がる様子はない。
「さぁて、ここからが勝負だ。トウマ、気合い入れろよ!」
「おう!」
異常事態に駆けつけた兵士達が続々と中から出てくる。
マコトの情報だと、敵の人数は三十六人らしい。
剣を抜いた二人が同時に切り掛かってくる。俺は左の奴の剣に向かって撫でるように剣を合わせて斬り払い、右の奴の軌道上に流す。
右の兵士が味方の腕を切り落とした事に気づき怯んだ隙に、空いている左手の拳を強く握り込んで右の兵士を殴り飛ばす。片腕を失った兵士は、明らかに戦意を喪失しているので、無視する。
ブレイブエールを掛けている状態では、蹴りや殴り付けるだけでも十分な威力になるのだ。
一人、また一人と戦闘不能にしていき、十を超えたあたりから、一撃で倒せない兵士が出てきた。
それでも、一撃で倒せないというだけで苦戦するというほどではない。一通り倒し切ると、ガザルさんが声を掛けてくる。
「そっちは何人やった?」
「十二。ガザルさんは?」
「十八だから、最初に倒した奴らを含めて三十二人か。残り四人が出てこねえが、まあ良いだろう」
ガザルさんが軍事施設の手前で待っているマコト達に合図を送る。
「あと四人は一箇所に纏まっていますから、この場所の責任者達かもしれませんね。パパドさんの所へは僕が案内しますので、お二人はついてきてください」
「俺達は残りの四人を片付けてくる」
そう言って、二階へと登って行く。奴らがいる部屋は二階の大部屋だ。
二階建ての奥に広い軍事施設は、内部の通路もそれなりに広く三人並んでもまだゆとりが少しあるくらいの内部構造をしている。俺の剣のように刃渡りの長くない武器であれば戦えるが、槍のような長物では難しいだろう。
牢屋は一階の奥の部屋で、残りの四人が居る部屋は二階の一番広い部屋だそうだ。俺達は、施設のちょうど真ん中にある階段で別れた。
一番大きな部屋には、部屋相応の大きな扉が閉まっており、静まり返っている。ガザルさんに目で合図をする。
二人で一斉に扉を蹴破り突入。
だが、目に飛び込んできたのは予想外の光景だった。
一番大きな椅子に腰掛け、優雅にカップを傾けている一人の老人がそこにはいた。
いや、正確に言えば、軍服を着た三人の男達が顔を腫らし縛られ転がされているのだ。
「久方ぶりだな。疾風」
目線をガザルさんへと向け、ニコリと笑う。口元は笑っているが、目が笑っていない。俺は少なくともそう感じた。
ガザルさんは、スッとしゃがみ胸に拳を当て片膝を立てると頭を下げる。
「アブディラハム最高司令官殿こそ、ご壮健なようで。しかし……なぜこのような所へ……?」
「なに、可愛い元部下が拘束されたと風の噂で聞いてな。これは、何か起きているなと思って駆けつけただけだよ」
「それで、最高司令官殿は………」
「お主はちと、正直過ぎる。敵か味方かどうすると顔に書いてあるわ。しかし、安心するが良い。見ての通りだ」
カップを置き、机の中から鍵を摘み上げ取り出す。
「さて、
―――――――――――――――――――
一方、救出部隊。
ガルシア王とパパドさんは涙の再会を交わしていた。
「ダメですね。この枷は鍵が掛けられていますから、これを解除する鍵がこの施設のどこかにあると思うんですが」
「魔法で壊すには、ちと小さ過ぎるな。大怪我をさせてしまうかもしれん」
「これは、素直にトウマ達と合流して鍵を探す方が良いでしょうね」
「その必要はないぞ」
知らない声に振り返ると、白髪に立派な髭。背が高く細身の老獣人が立っており、後ろにトウマ達が控えている。
「アブディラハムが何故ここにおる!?」
ガルシア王が驚き声をあげる。
とても老人とは思えないほど、軽やかな礼をした。
「手足をもがれ、己の主を助け出す事が出来なかった老耄の名を覚えておいてくださったとは、恐悦至極に存じます」
「そんな事はどうでも良いのだ!なぜ、ここにいるのかを聞いている」
ガルシア王が苛立ち強い口調で再度問う。
「簡単な事です。私は王を再び獣人国の王へと押し上げたく馳せ参じたのでございます」
僕達はこうして、二人の智将を味方にしたのだった
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