第23話 ガルシア王奪還作戦 2
翌早朝、日の出前に起きた俺達は、暗闇の中行動を開始する。
テントは畳んで木陰に隠し、罠は解除してテントと合わせて置いていくことにした。作戦中は、荷物にしかならないからだ。
日の出を確認してすぐに、マコトとリーナの通気口侵入部隊が動いた。昨夜必死に突入案を模索した結果、どうやら満足のいく作戦が浮かんだらしい。
一方で、俺たち正面突入部隊は辺りが完全に明るくなるまで正面入口の手前で待機だ。
ユノは木が密集している、隠れるのにはうってつけのこの場所で、待機することになった。
近接戦闘が得意ではないので、主に傷の手当てと水魔法に
よる補助をしてもらう。
間もなく日が完全に昇り、辺りを明るく照らすだろう。
俺は、剣を握る手から汗が噴き出しているのを感じた。
その様子を感じ取ったのか、ガザルさんが小声で、
「トウマ、少し肩の力を抜け。なにも殺し合いをするわけじゃない。多少の怪我はして貰うが、目的は奴らを無力化するだけだ」
「うん、分かってる…」
「そろそろ突入だが最終確認だ。ユノはここで待機、何があっても出て来るな。トウマ、作戦内容は?」
「ブレイブエールをこの場で使用、すぐにブーストを掛けて接近し、右の警備兵を無力化。その後は内部に侵入し、通路上の兵士と交戦しつつ、一階中央付近で戦線維持をする。
ガルシア王を連れたマコト達が一階まで脱出してきた時点で通路上に兵士がいる場合は、フレアを使って逃走経路の確保優先。俺かガザルさんが継戦不可に陥った場合は、ここまで一度後退し、ユノの治療を受けること」
「…………作戦失敗時の撤退については覚えているな?」
「俺とガザルさんのうち、どちらかが死亡。もしくは戦闘不能になった時点で、生存者はここまで退避し、ユノを連れて小川の所まで全力で撤退。マコトとリーナが撤退時には、入口側から魔法をぶっ放すのを確認してから、全員で小川まで撤退だったよな」
ガザルさんは静かに頷いた。
「大斧を持った奴が出てきたら、決して一人で戦おうとするな」
「分かった」
「よし、作戦開始!」
「"光輝よ、我らに光の祝福を"ブレイブエール」
三つの光球がゆっくりと渦のように身体の周りで昇ると、弾けて俺達三人の身体に吸い込まれていった。
腕の表面が薄く発光しており、魔法が発動したのを確認した。
「いくぞ!トウマ!」
「おう!」
「「ブースト!」」
抜剣した俺達は、遠目に見えていた軍事施設入口に立つ兵士に強襲を仕掛ける。
ブレイブエールとブーストを併用した時の瞬間速度は、他者と別の時間を生きているような、そんな感覚になる。
一瞬のうちに接近してきた俺たちに、兵士達は槍を構えることすら叶わず、昏倒する。剣の腹を使って後頭部を殴打したのだ。簡単には目覚めないだろう。
槍をへし折ってから、内部に侵入をする。
「何だお前達は!ここは獣人軍の軍事施設だぞ!」
六名の兵士が、駆けつけ抜剣する。皆、構えがバラバラで強そうには見えない。
「んなこたぁ、わかってるよ。俺達が遊んでやるからまとめてかかってきな」
ガザルさんは剣をぷらぷらと手で揺らしながら、わかりやすい挑発をする。
「貴様ァ!」
手前にいた男が大ぶりな袈裟斬りを放つが、虚しくも空を斬る。最小の動きで躱したガザルさんは、流れるように男の手元から剣を巻き上げると、そのまま剣の腹で顔をぶっ叩き、兵士を壁まで吹き飛ばす。
巻き上げた剣を左手で拾うと、空いた鞘に収めた。
「さあ、次にぶっ飛ばされたい奴は……どいつだ?」
空いた口から牙が見え、獰猛な笑みを浮かべていた。
「ひ、怯むな!敵はたったの二人だぞ!囲め!」
接近してきた兵士に足払いを決めた俺は、横転する兵士の顔目掛けて肘を落とすと、兵士の意識を刈り取った。
仲間を斬るのに躊躇ったのか、一拍置いて切り掛かって来た兵士には、ブーストを使い、後ろに回り込んでから思いっきり後頭部を剣で叩いて吹き飛ばす。
僅かな時間で無力化に成功した俺は、気絶した兵士から軍刀を奪取すると、剣を持ち替えた。普段使っている剣より刀身が長く、勝手は違うがよく手入れのされた剣だった。
………予め決めていた事だったが、連戦に剣が保たないことを考慮して、倒した相手から剣を奪うことにしていたのだ。
ちらりと横目で見ると、追加で四人の兵士が壁側に転がされていた。
「おう、終わったか?余裕だからって油断するなよ」
「なあ、こんなに兵士って弱いのか?」
俺は兵士達の歯ごたえの無さに驚きを隠せなかった。いくら、ブレイブエールを使っているとはいえ、上手くいきすぎているのだ。
「まあ、一般兵でこんな所の警備やってるくらいだからな。実践経験が無いんだろうよ。ホラ、ボサっとしてんな!次が来るぞ」
全身の光が弱まりだした。そろそろブレイブエールの効果が切れるのだろう。俺はもう一度、ブレイブエールを唱える。
遅れて奥の方から現れたのは、鎧を着て大きな盾を持った手強そうな兵士だった。
「チッ、アイツら固そうだな。トウマ!アレ、使っていいぞ」
許可が出た。俺はすかさず、詠唱を始める
「"火球よ、眼前の敵を燃やせ"ファイアボール」
手のひらに発現した二つのそれを、走りながら両敵に向けて発射する。
大盾の兵士達は、急に現れた火の玉に驚いたのか、盾を突き出すと身を顰めて構えた。
ファイアボールは盾へと真っ直ぐ進み当たるが、盾の扱いが上手いのか、斜めに構えた盾に当たると燃え広がらずに霧散したのだった。
だが、俺達の狙いは別にあった。
俺達は盾持ちの兵士にファイアボールの射出と同時に接近すると、側面に回り込み鎧の隙間に浅く剣を滑らせる。
斬られた痛みからか、盾を持つ手が下がった瞬間を見逃さなかった。
斬った胴を思いっきり蹴りつけ、患部を庇う兵士の空いた顔面を軍刀の柄で殴り気絶させる。
俺は、盾持ちの兵士を無力化できたことで、気が緩んでしまったのだろう。急速接近する気配にギリギリまで気付くことが出来なかった。
気配に気付き振り向くと、眼前には凶刃が迫っていた。
(防御を………くそッ間に合わないッッ!躱す!)
時間がゆっくり流れているかのように錯覚した。横薙ぎで迫る刃を後ろに飛び躱そうとするが、刃の軌道から外れることができない。恐らく、振りながら踏み込んできているのだろう。
躱せないと悟った俺は、剣の柄で防ごうとする。恐らく悪手だろう。だが、次の瞬間、見慣れた背中が目の前を覆い尽くし、全身に強い衝撃が走った。
何が起きたのか分からなかった。おそらく吹き飛ばされたのだろう。仰向けに倒れていた俺はすぐに起き上がる。
陽の光が差し込んでいる。どうやら、通路の入口付近まで吹き飛ばされたようだ。
身体を見回すと擦り傷があるくらいで、大した怪我はしていなさそうだった。
「ド派手な音がするもんだから来てみりゃ………随分と懐かしい顔があるじゃねぇかよ」
通路の奥から低い声が響く。声の主を見て俺は剣を構えた。
片刃が血で染まった両刃の、大きな斧を肩に担いだ鎧姿の大男がそこには立ち塞がっていた。
間違いない…この男が斧鬼だろう。
「なあ、疾風 ――――」
斧鬼は怪しく笑うのだった―――
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