第19話 第一章 エピローグ

 親書を受け取った翌朝、俺達はエルフの国をあとにした。


 ハク達に乗って行こうとしたのだが、ノルンがマコトを乗せてくれず、仕方なしに歩いて行くこととなったのだった。

ガザルさん曰く、マコトのことを認めていないから乗せてくれないのだそうだ。ちなみに俺も乗ることができなかった。



 振り返ると、大老樹が小さく見えた。

エルフ達は、まだ自由に森から出ることができないため、帝国軍からの侵略に備えて守りを固めるらしい。

エルフの里から、元のエルフ国に名を戻すためにも、居住区の整備や王の住まいも作り替えるそうだ。

昨夜の別れ際に、ヨルダからトウマ、行き場がなければいつでもこの国へ来い。我らはお前達を喜んで迎え入れるぞと肩を叩かれたのがすごく印象的だった。



 檻に入れられたり、敵視されたりと散々な目にあったはずなのに、何故だかすごく懐かしい温かみを感じた。

どうやら俺は、エルフの国が好きになってしまったらしい。


 そんな事を考えながら、森を進んでいるとそれは突然やってきた。



 「あんた達ぃいいいいい!まちなさいよぉおおおおおお!」


バカみたいな大声に振り返ると、鬼のような形相でリーナが迫ってくる。



 「あれ、リーナさんだよね?どうしたんだろう」

ユノが首を傾げる。だが、その姿と対照的にマコトは深いため息をついた。

ようやく追いついたリーナは、肩で息をしながら不満をぶつける。


「なんで…あたしを………置いて行くのよ……あたしを連れて行くって…………約束したじゃないの……………はぁ……」



 マコトがめんどくさそうな顔をしながら言う。

「あの、リーナさん。リーナさんは、お姫様なんですよね?国を離れて良いんですか?と、いうかヨルダさんは何て言ってました?」


リーナは上がった息を整えてから答える。

「何も言ってないわよ?」


「はい?てことは無断で国を出てきたんですか!?」


「当たり前じゃない。だってお父さんに話したら断られるに決まってるもの。それに、めんどくさい!」


自信満々にリーナは言った。

マコトはそれを聞き、さらに深いため息をつく。


「なあ、リーナ嬢。俺達は獣人国に向かっているんだが、嬢ちゃんの本当の目的は何だ?」


「前に言ったわよね?森の外に行きたいって。皆んなと旅して、外の世界を見てみたいのよ」


「僕達の旅には危険が伴います。帝国軍と交戦になる可能性が高いので、最悪命を落とすかも知れませんが、それでも構いませんか?」


「全然へっちゃらよ。外の世界でくたばるなら本望だわ。それに、マコくんも一緒でしょ?」


マコトが押し黙る。


「がははは!マコト諦めろお前さんの負けだ。それに、嬢ちゃん結構戦えるんだろ?戦力が増えるのは、俺達からしてもありがたいからな。嬢ちゃんよろしくな!」


「こちらこそよろしくね。ガハハおじさん。それとあたしのことはリーナと呼んで。姫とか付けなくて良いから。あくまで対等にお願い」



こうして、リーナが仲間に加わるのだった。





 「へぇ、この子がお父さんが言ってたユニコーン?思ったより可愛いわね」

リーナが撫でると、嬉しそうに尻尾を振った。どうやら、ユノよりも相性が良いらしい。


「でも、まさかこの子達が迷いの森を抜けられるなんて………マコくん達が来なかったらきっと、一生森からは出られなかったわね」



 「そういえば、リーナさんは魔法を使えるんですよね?どんな魔法が使えるんですか?」

マコトがノートを取り出し、聞き出そうとする。



 「うーんとねぇ……マコくんにも教えてあげなーい!」


俺は咄嗟にマコトを抑え込んだ。俺が止めなきゃ、ノートをリーナに叩きつけてたのは容易に想像ができたからだ。現に片手を振り上げ暴れている。



 「リーナさん!私に魔法を教えてください!」

ものすごい熱量でユノがリーナに迫る。

「え、うん。………………あ」

急に詰め寄られてビックリしたようだ。

「今、うんって言いましたよね!」

「待った!今のナシ!!」

「えー、うんって言ってくれましたよー。近いうちに教えてくださいね。約束ですよ」

どうやら、ユノの方が一枚上手だったらしい。

リーナはぐぐぐと唸っている。


「ほらお前ら。遊んでないでとっとと行くぞ!」

「「はーい」」


 俺達はハク達親子の後ろをピッタリとくっついて歩く。

マツカゼが仕切っているようで、二頭はその後ろをゆっくりと歩き、俺達はその後ろを追従する。



しばらく歩くと、森の切れ目が見えてきた。

うわーうわーと、リーナが感嘆の声をあげている。


 「そういやリーナって何歳なんだ?」

ふと、気になったので聞いてみた。


「ふふふ………ナイショ」

目が怖い。口元は笑ってるのに、目だけで人を殺せそうだ。

「トウマ、女性に歳を聞くのは失礼だよ。とりあえずちゃんと謝って、今後はやめた方がいいよ」

マコトがボソッと耳打ちしてくる。

「リーナサン、スミマセンデシタ」

俺は言われた通り謝った。


「はいはーい。気にしないでね、全然怒ってないから。トウマくんと違って、マコくんは本当に紳士ねぇ」


あ、これ、完全に怒ってるやつだ。ユノもたまにこんな言い方する時があるし。



こんな感じで和気藹々と、森を抜けて獣人国を目指すのだった―――





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