第49話 探索の終わりに見えた未来

 ミナーセの店舗展開がひと段落したので、グラリア王国の東を旅することにした。

 東は一面の麦畑が広がる穀倉地帯で、農業と酪農を地盤とする複数の有力者がより集まる農業国家バートン連邦が広い国土を有していた。


 急峻な北の山脈がエルフの脅威を退けてきたこの国は、のんびりとした牧歌的な雰囲気をしていたが、脅威に晒されない環境下では技術が発展していかないのか、ほとんど娯楽がなく料理も硬いパンに酪農で得られるミルクやチーズやハムを使った素朴なもので、酒は一般的なエールが嗜まれていた。


 グラリア王国からレーズンの天然酵母や蒸留機を送り込んで柔らかパンやウィスキーを普及させたくなったが、大きな都市がなく村落が点在する形態だったので難しい。アーランドのように主導的な立場を持っているわけではなかったので、動力を利用した製粉など農業革命的なこともできはしなかった。


「西側諸国が抑制ウイルスでエルフからの脅威から解き放たれたら、案外人間同士で侵略戦争が起きるかもしれないわね」


 それでも人族が絶滅するような事態は避けられるのだから、向こう百年の束の間の平和であっても私がどうこういう立場ではないでしょう。

 そう考えたミナは上空に舞い上がり広大な農地を見渡した。


 どこまでも続く黄金色をした麦畑は、風に吹かれて穂を揺らしていた。


 ◇


「何もないわね」


 毎日一定距離を進んで東の海まで到達したミナはつぶやいた。

 東端まで何も変化がないとは思わなかったわ。ある程度精巧な世界地図が作られるまでは、自国や他国の大きさがどれくらい違うか大雑把にしか把握できていないのかもしれない。


 ここまでで、大体、人の生存圏内のことは把握できた気がする。

 前世の歴史と照らし合わせると、大陸間移動をするような大航海時代まで五百年くらいはかかりそうだから、それまでアーランドと中央大陸の交流は起こらないでしょう。そこまでくると、私の子供たちを擁するアーランドとの差は歴然になっていくかもしれない。寿命は三百年弱あり少なくとも高等教育程度まで施したのだ。


「アーランド無敵艦隊による黒船来航になりそうだわ」


 こちらでも子孫を残すという手は、私がアークヒューマンになったことでなくなった。

 となれば、子供や孫たちの誰かに中央大陸に移り住んでもらってフェアファミリーの血筋を拡散するしかない。


「国葬までしてもらったのにどんな顔をして会いに行けばいいの?」


 にっこりと笑うと、こんな顔で行くしかないわねと覚悟を決めた。

 もう隠さないと決めたのだ。私が残した血筋の責任は私がとるわ。

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