第45話 ティファールガラス
思わぬ伝手でティファールに支店ができたミナは、ガーランド王国における商会登録を済ませ、支店長とオープニングスタッフを転移で送り届けた。当面の仕入れは同様の手法による転移&アイテムボックスを使い、サプライチェーンが安定するまでミナが支店の立ち上げをサポートした。
こうしてクイックスタートしたティファール支店だったが、お忍びで貴族も訪れるようになっていた。
需給改善により、一部の貴族外商を通して、ミナーセのハーブ石鹸、シャンプー、リンス、ヘアパックなどが貴族に渡ったのが始まりだった。
明らかに違う髪の艶が夜会で話題になると、あっという間に出所を探しだされ御用達になった。使用人が補充に来た際に、料理やワインのクオリティも半端ないことに気が付いて主人に報告したのだ。
但し、貴人に対する接客を教え込んだり貴族専用の部屋を用意することができなかったので、公式的には貴族向けの展開はしないことにした。
春になる頃には店舗運営も軌道に乗ったので、フロアスタッフとしてのお手伝い兼ヒアリングはやめ、物流以外は支店長やスタッフに任せ、これにより、本来の観光目的としてティファールにある店や市場を見て回ることができた。
◇
作物は特に新しい発見はなかったけれど、まず特徴的なこととしてガラス製品が出回っていた。
ワインの瓶がたくさん欲しいなと工房街に行くとドワーフが居た。
この大陸にもドワーフって居たのね。
「こんにちは、酒瓶をたくさん作ってくださいな」
とりあえずストレートに切り出して金貨の袋を渡した。
一体なにに使うのか、大きさはどれくらいかなど聞かれたので、標準サイズの750mlで瓶底は凹ませて澱が舞い上がりにくくする特徴的なワイン瓶を話した。蓋はオーランドで算出されるコルクに似たものを使用するつもりだ。この際だからと、他にも一升瓶、ビール瓶、ウィスキー瓶、ブランデー瓶、ラム酒の瓶、あとはワイングラス、クリスタルグラス、ショットグラス、御猪口など一通り注文した。
「おい嬢ちゃん、それはみんな酒なのか」
胡乱な目をしてワイン以外は聞いたことがないというので、魔法で氷でクリスタルグラスを二つほど生成したあと、ドワーフさんの好みだったストレートと人族向けの丸い氷を魔法で出し浮かべたロックの二種のグラスに、昔ドワーフさんに提供したものを共に改良した二十年物のシングルモルトウィスキーを注いだ。
「このような感じのグラスを作って欲しいです」
冷たいので手袋をつけてくださいねと、琥珀色が透けて美しい氷製クリスタルグラスを差し出した。
ドワーフさんはガラス加工で使う手袋を付けて一気に呷り・・・そのまま固まった。
唇が凍傷にならないかと心配になり声をかけると、気が付いたようにロックの方も一気にいった。
「他のも飲んでみます?」
黙り込んでいるので少し不安になり聞いてみると頷いた。
それぞれ記憶にある形状を忠実に再現した氷製グラスに7種の酒を次々と注いでいくと、あっという間に空になった。
「大抵は形状の全てにお酒を美味しくする意味があるので、なるべく似た形をお願いしたいんですけど無理なら妥きょ…」
バンッ!机に拳が振り下ろされた音に首を竦め、最後まで言えなかった。
「妥協は無しだ!」
そう言われたので、光を遮る意味で瓶の色も着色料を使って再現した。
真剣にそれらを観察したあと「色物はグラッドの方がいいな」とつぶやいた。
◇
何故か別のガラス工房にきて、ドワーフさんは瓶やグラスの説明をすると頭を下げた。
「グラッド、色ガラスの瓶を頼む!」
そう言われたもう一人のドワーフさんは戸惑ったように言った。
「おいおい、ギッシュなら自分でできるだろう」
そういうと私の方を向いてさっきの酒をもう一度頼むというのでもう一度繰り返すと、グラッドさんも黙り込んでしまったので、心配になり
「あの、難しいようでしたら妥きょ…」
バンッ!また机に拳が振り下ろされた音に首を竦めた。
「「妥協は一切無しだ!」」
挑むように互いにガッチリと握手するドワーフさんたちを見ながらお願いしますというしかなかった。
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