第42話 オーランドの街

 砂漠があるなら地中海性気候に似た場所もあるとは思っていたけれど素晴らしいわね!


 城塞都市ミドガルを飛翔して南下すると、比較的温暖でありながらカラッっと乾燥した空気に変わり、オリーブ、トマト、ブドウ、レモンに似た作物の畑が散見されるようになった。つまりは、


「パスタきたー!」


 ということだ。自然に成っているのなら収穫しまくるところだが、どう見ても人手が入っているため、素直に街を探して市場で買うのが良いでしょう。


 そんなことを考えながら畑の畦道を辿って基幹道に抜けてしばらく飛び続けると、港を囲う斜面に赤茶けたレンガの屋根が特徴的な街並が見えてきた。城塞都市と違って特に検問はしていないようだったので、そのままオーランドへようこそと書かれた街のアーチをくぐると、正面に市場らしきものが見えてきた。

 畑で見た作物を見つけ鑑定をかけると、オリブン、トーマ、ブド、レモネと出たので、大量に買い込んでアイテムボックスに詰め込んだ。


 ◇


 宿屋を見つけチェックインすると、早速、調理機能を使ってオリーブオイルやトマトソースを作った。小麦系の製粉済みの備蓄は沢山あったので、スパゲッティ、フェットチーネ、マカロニ、ペンネ、ラザニア、ファルファッレといった用途別パスタをアイテムボックス内で作り上げた。

 これでいつでもミートスパゲッティやカルボナーラ、マカロニグラタン、ラザニア、パスタサラダといったイタリアンテイストが楽しめるわね!


 などと美味しい妄想をしているといつのまにか陽が傾いて夕刻になっていた。女将が夕食の用意ができたことを知らせてきたので、既知のレシピはさておきこの星ならではのレシピを堪能させてもらおうと一階の食堂スペースで席に座った。


 レモン水に硬い葡萄パン、いえ、こちらの作物で言えばブド黒パンかしら?トマトの切り合わせにオリーブを使ったドレッシング、そして羊っぽい干し肉にチーズのつけ合わせだった。

 あ、うん。本当はエールとかワインと合わせて飲めって感じなのでしょう。私の見た目的にレモン水にしてくれたのでしょう、わかります。

 女将さんに聞いてみると、しばらく先にある港から東西に特産物を運ぶ水夫が泊まることが多いそうだ。


 うぅ・・・期待した私が間違っていたわ。

 考えてみればレシピを叩き込んだ後宮や自分の調理機能付きアイテムボックスではない食べ物を食べたのは何年振りかしら。


 ここは一発、食の伝道師としてパスタと柔らかパンを普及させるしかないわね。

 そんなことを考えながら夕食を食べ終えた。


 ◇


 次の日、数十年、使い道がなく溜め込んでいた金貨を使って食堂を買収した。


 とりあえず昼食はオープンカフェ形式でミートスパゲッティとカルボナーラ、それからクリスピーをベースとしたピザを、アイテムボックスを使った完成品を参考にさせ、レシピを渡して作らせた。

 夜は、アーランド大陸で作った酵母を使って柔らかいパンを焼き、くだんの日本クオリティの赤ワインと白ワイン、ワインで煮込んで柔らかくした羊肉にホワイトソースをベースとしたシチューパスタ、マカロニグラタン、ラザニア、パスタサラダを提供した。


 統一させたユニフォームを仕立て、一ヶ月ほど接客スタッフを兼任しながらヒヤリングしては味や材料原価の調整をするPDCAを回したところ、上々の成果を上げることができた。軌道に乗せるにはパスタ製造器が必要だけど、ここにはドワーフもいないし構想図面だけ伝えて店長代理に考えてもらうしかないわね。

 幸い、乾燥パスタの状態にした在庫なら幾らでも残しておけるし、3年をめどに考えてもらうことにしましょう。


 一段落した後、当初の予定通り石鹸の開発をした。

 夫の帰りを待つ婦人向けのプレゼントとしてオリーブオイルを使った高級志向のハーブ石鹸をレジ先に置いて販売させると、密かなブームとして広がっていた。

 割と好評だったので、シャンプーやリンス、オリーブオイルのスクラブを使ったヘアパックなど順次ラインナップを増やしていった。


 こうしてイタリアン風味のレストラン「ミナーセ」本店の原型が生まれた。

「ミナーセ」はミナのレシピとチェーン展開ノウハウ、この時代としては飛び抜けた品質のワイン、そして豊富な資金を背景として、中央大陸の主要都市を席巻する大店(おおだな)として、向こう20年で急成長していった。


 なお「ミナーセ」のトレードマークとなる美しい少女が配膳する様子を描いた看板は、初代支配人が支店長一同で共同提案したもので、ミナ以外の満場一致で採用が決まったと、当時を知るものは懐かしく語ったという。

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