第40話 隠遁生活のその先へ

 この星にはまだ私の知らないことが沢山ある。知らない風景、まだ見ぬ街、そしてダンジョン。

 未知の知識であったダンジョン攻略で、地球とは少し違う法則でできた大自然の不思議に触れたことで、ミナはかつてのように外界への興味を取り戻していた。


 高原での別荘生活も悪くはないけど、そんな狭い世界で隠遁生活を送るのはまだ早い。数千年という長い寿命を考えると、人生の損失でしょう。昔、女神様が勧めた境地はこれだったに違いない。


 もう下を向かない、もう何も隠さない、最後の一呼吸まで、先だつ子々孫々の家族達に恥じない人生を送ってみせる!前の人生と合わせ齢百歳、ミナは精神的な羽化を果たしていた。


 ◇


 その瞬間、気がつくと周りの風景が今までと違って見えた。

 自然を流れる精霊達の姿、魔力の流れ、その全てが直感的に理解できる。

 ミナは今この時を以って仙人の境地である精霊瞳を会得したのだ。


 ハイヒューマンにはもう一段上のアークヒューマンが存在した。宇宙神が予測した未来の可能性において、上限近いルートを分岐して辛うじて掴み取れるわずかな確率を、ミラは手繰り寄せることに成功していた。


「わたし仙女になっちゃった?」


 より高性能に昇華した鑑定で、自分が仙骨を得たことを看破した。これによって、数千年だった寿命が、限りなく不老不死に近づいたことを悟った。


 おかしいわね、まだこんなに欲に溢れているというのに。実現したいグルメはまだ沢山あった。それに、まだ生殖能力だって失われていない。どうしてよ神様と上を見上げると女神エスリール様がこちらを覗いているのがわかった。


「あら、おめでとう」


 聞くところによると存在の位階が一段上がったことで、少し離れた次元との間でコンタクトを取れるようになったそうだ。ちなみに白竜さんはこれができるまで三千年かかったらしい。


 なお、普通は不老不死に至った段階で子孫を残す必要性がなくなることから、生殖能力が退化するらしいのだが、宇宙神特製の素体だからか全く影響が見られないそうだ。

 貴方は本当にびっくり箱ねと笑われてしまった。


 この状態で子供ができると、子供はハイヒューマンの数千年の寿命を得るから、子作りは計画的にだそうだ。言われなくても当分考えられなかった。


 ◇


 私は女神様にしばしの別れを告げると、まだ見ぬ街を目指して飛翔した。

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