第39話 Sideアーツ:駆け出し魔法使い?

 Aランクパーティを率いるアーツは臨時で魔法使いを探していた。

 どうにも今回のダンジョンは入り組んだ構造で、暗がりからの攻撃を受けることが多く、経験豊富なAランクパーティでも、魔法使いの補助なしでは攻略は難しかった。


「駆け出しでもいいから誰かいねぇのか?」


 そう現地の受付嬢に聞くガンツだったが、力のある魔法使いはエルフとの抗争に駆り出されていてなかなか難しいという。


 仕方ないと舌打ちして宿屋に戻ろうと振り返ったその時、ギルドの扉が開かれ、とびきりの美少女が姿をあらわした。歳の頃は17歳くらいだろうか。碧眼の瞳に紫銀の御髪、一流の芸術家でも描かれないような完璧な造形。


 思わず受付嬢の方を振り返って、居るじゃねぇかと問いかけた。

 ありえないことに碧眼の瞳なのだ。駆け出しの年齢でも魔法使いに違いはあるまい。


「あ〜あの子は、そのぅ・・・」


 いまいち煮え切らない返答に痺れを切らし、直接、臨時パーティに誘ってみたところ、


「う〜ん、怪我が治るまでの期間限定ならいいわよ」


 鈴を転がすような澄んだ声で、意外にも了承してもらえた。


 名前を聞くと貴族かと思ったが、何やら事情がある様子だったので詮索はやめた。

 冒険者に余計な詮索は御法度だ。


 ◇


 最初からおかしかった。


「サンライト」


 昼間の太陽のように明るいダンジョンなんて化かされたような気分だ。

 こんな強烈な照明を維持して魔力は大丈夫なのかと心配になったのかガンツが聞くと、何の負担にも感じていないようだ。そうだ、碧眼の瞳なのだ。そういうこともあろう。


「今ここで、赤い点が魔獣たち。前方600メートルに何かいるみたいよ」


 なにかゴニョゴニョと唱えていたかと思うと、見たことも聞いたこともない魔法が目の前に展開されていた。なんと、ダンジョン入り口にして、下層1キロメートルまでの構造をつまびらかにしたと言うのだ。しかも良くみると赤い光点がゆっくり移動している。魔獣の位置まで丸分かりだった。


 初めは単なる冗談かと思って警戒しつつも言われるまま進んでみると見たまんまだった。真昼間の道でウルフを狩るくらい簡単で、しかも次の標的まで最短距離で向かうことができるから好きなタイミングで好きなだけサクサク狩ることができた。


 暇を持て余したのか、ミナも攻撃すると言うのでやらせてみると、最初は魔獣の顔付近に水球が発生してパチッと音がしただけで、駆け出しらしく魔法を失敗したのかと、ある意味ホッとした次の瞬間、


 ガァーーーン!!!


 と物凄い音がして目の前の魔獣の群れが消滅した。

 遠くの壁を見ると、何か杭のようなものがクレーターを描くように複数めり込んでいた。

 口元に手のひらを当てやっちゃったと慌てているミナと腹を抱えて大笑いしているガンツを見て、


「ミナは攻撃禁止な」


 と宣言した。


 ◇


 あまりの順調さに周辺一階層分狩り尽くしたので、少し休憩を入れようと座り込もうとすると、それならとミナが小屋を出した。


「・・・」


 頭が痛くなってきたが、ガンツやレイを見るともう気にしないようで、俺も突っ込むのをやめた。

 小屋の中で、ミナはサンドイッチなる柔らかいパンに野菜や肉を挟み込んだ料理を振る舞ってくれた。そしてどこから出てきたのか冷たく冷えた果汁のジュースが添えられていた。

 ある程度腹が膨れると、入れたてのお茶とチョコレートケーキなる菓子がデザートに出され、レイが物凄い勢いで食べていた。


 休憩を終えて小屋の外に出てみると、何かに阻まれるように魔獣が何もない空間に突進を繰り返していた。


「休憩中は結界を張っているので安全ですよ」


 なるほど。そりゃ便利だ。何も考えるな。そう自分に言い聞かせた。


 ◇


 たった一日で今回の遠征で集める予定だった魔鉱を狩り切り、ギルドのカウンターに広げると受付は白黒していた。そりゃそうだろう、俺だってわけがわからん。


 思いの外、早く立ち直った受付嬢はミナの昇格を告げた。ああ、あの若さだからこれだけ狩ればランクも


「それではミナさんはランクDに昇格です、タグをお願いします」


 待てや!ダンジョン内でもう突っ込むまいと決めたはずのアーツだったが、思わず叫んでしまった。

 今までEランクだったとでも言うのか?どこの駆け出しだ。いや、駆け出しか。


 そんな彼女が、かの有名な山の魔女だということを知ったのは、後日のことだった。

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