第36話 中央大陸へ

 夫が亡くなってしばらくは涙が止まらなかったが、葬儀を終え喪が明けた頃には落ち着きを取り戻していた。


 毎日の礼拝でたまたま女神様に再会することができエルフ抑制の進捗状況を聞くと、アーランドでの実証実験でコツは掴めたと言うことで、今後は他の大陸のエルフの情動抑制にも手をつけていかれるそうだ。

 エルフの脅威も去り、フェアファミリーの血筋も十分に遺したことから、これから先は自由に生きていくことに決め、時の教皇と結託して急逝したことにした。


 エルフからの襲撃を跳ね返す武器防具や、数々の発明で民の生活改善に努めた聖母として、盛大な葬儀が執り行われた。


 新天地は女神様がかつて勧めてくれた中央大陸だ。


 夜半に旅立つ前に、最後に時の皇帝、つまり私の長男に転移で会いにいった。


 隠蔽と防音の結界を張り、幻惑魔法による老いた姿で我が子を起こすと、死んだはずの母が側に立っているのを見て驚いていた。


「母上!生きておられたのですか」


「事情があってね・・・」


 そこで、パチンと指を鳴らして幻惑魔法を解いた。

 碧眼の瞳に輝く紫銀の御髪、幼い頃の記憶にある誰よりも綺麗で美しい母上そのもの、いや、それよりもやや若い美少女が佇んでいた。


「母の寿命は普通の人族より長いの」


 女神様から神使として数千年は生きると教えられていたこと、この若い姿では人の世でひと所に過ごすことはできないこと、中央大陸に向かうつもりであることを告げると、皇帝は涙を流した。


「あなたももう親でしょう?子供や孫たちをしっかり育てるのよ」


 幼い頃そうしてもらったように、優しく頭を撫でられた後、誰もいなかったかのように母の姿が掻き消えた。


 ◇


 湿った雰囲気を払うかのように、ミナは久しぶりに白竜さん直伝の飛行魔法を駆使して、記憶にある中央大陸方向に向けてかっ飛ばしていた。


 使命は果たした、エルフによる滅亡シナリオも回避できた。


「後は楽しい老後生活ね!数千年の!」


 ヤケクソ気味に声を上げると、改めて長すぎる老後に頭を抱えた。

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