第35話 結婚、そして・・・

 婚約式から一年が経ち盛大な結婚式が挙げられた。


 その後16歳で身籠もり17歳で皇太孫となる金髪碧眼の嫡男が生まれた。それから10年で3男4女と子沢山に恵まれた。私の直系の一族は金髪碧眼であることから、フェアファミリーの血筋として尊ばれた。


 フリードリヒ皇帝は50歳になると隠居してグレイ様に皇帝を継がせ私は正妃となった。側妃を取らないのか聞くと、ミナが居るのに他の女性なんか目に入らないといわれた。

 表向きは、これ以上皇子皇女が増えると経費も馬鹿にならないことから、特に臣下からの強い要請もあがあらなかった。実のところは、公爵をはじめとした貴族家としても、フェアファミリーの中で娘の子、つまり自分の孫が肩身の狭い思いをすることを考えると、積極的には出られなかったのである。


 ミナは自分が居なくてもエルフの襲撃に対応できるよう、自分の子供たちに物理や科学、化学などを教え込み、得意とした魔法を伝授していった。ただ、結界魔法、アイテムボックス、知らない国の言葉でも理解できる言語理解、鑑定といった宇宙神様が付与した能力は遺伝しなかった。


 ◇


 エルフの襲撃は、抑制ウイルス拡散から20年も経過すると数字に表れてきた。

 月に何度か襲撃を受けていた森に面する辺境伯領では、今では年に数回、それも単身による単発的なものにおさまっていた。

 この頃になると、第一子である皇太子が正妃・側妃を娶り、長女がフィリス公国に嫁ぎ、二女以下の娘たちは公爵に降嫁し、フェアファミリーの血筋が拡散していた。

 また、科学知識を教え込んだ子供達の手で、単発的な襲撃にも互角以上に対応することができるようになっていた。


 エルフの襲撃が少なくなった原因が不明であったことから、軍部は一時的なものかもしれないと判断してさらに10年は警戒体制を怠らなかったが、その頃になるとほぼ襲撃がなくなったことから、何かしらエルフに異変が起きて人族に襲撃をかけることができなくなったと結論付けた。


 グレイ皇帝が50歳になると、30歳近くなった皇太子に皇帝の座を譲り隠居した。それを見届けるかのようにフリードリヒ前皇帝は71歳で静かに息を引き取った。


 さらに20年経った今、私はかつて最初に生活をしたログハウスがあった場所で、グレイ様と隠遁生活を送っていた。50年以上続けてきた常時結界は円熟の域に到達しており、もはやどこで暮らしても問題がなかった。

 そんなミナの目の前で、グレイ前皇帝は最後の時を迎えようとしていた。


「今までありがとう」


 若い頃と変わらぬ理知的で優しい目をしていった。ミナは手を握りながら、涙を流していた。どんなに強い魔力を有していても、寿命だけはどうにもならなかった。


「最後に本当の姿をみせておくれ」


 突然の言葉にミナは目を見張りハッとした表情を浮かべると、


「姿形は老いて見えても手の感触は偽れないよ」


 そう聞くと、ミナは長年維持してきた幻惑魔法を解いた。

 吸い込まれるようなクリスタルブルーの碧眼の瞳、天使の輪を描くように輝く紫銀の御髪、全盛期と変わらぬ17歳前後のミナが、真珠の涙を零してグレイを見つめていた。


「夢のような日々をありがとう」


 もう一度感謝を伝えると、満ち足りたように息を引き取った。

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