第34話 エルフ抑制遺伝子と未来
後宮に移り住みしばらくして忘れないうちに世界地図を描いた。
細かい海岸の出入りまで聞いている訳ではなかったから、楕円で描いた模式的なものであったが、大航海時代すら訪れていないこの世界では初めての試みであった。
ミナの描いた地図が地理院に渡ると、いろいろ質問され、他の大陸の気候や植生、人の有無、今いる大陸の全体像などの付加情報が付け加えられた。まだ天動説が主流のようだったので、ホログラムをイメージした昔テレビで見た太陽系の番組を思い出しながらホログラムで恒星の周りを周回する惑星の様子を再現して説明すると、愕然とした様子だった。
これを機に天文学が起こり、十数年後、周期性のある星を観測することで正確な暦が作られることとなるのは後の話。
現在の文明レベルからして、普通に時が経過した場合、この地図を元に大陸間貿易がされるのは千年弱はかかるだろうけど、産業革命を推し進めていった場合、定かではない。ファンタジー世界でも技術的要素がないわけではないので、最終的に科学が急速に発達するとエルフといえども現代兵器の餌食になるはず。
果たしてそこを目指していいものなの?
かつて見たツリーダイアグラムが示していたように、未来分岐の可能性はいくらでも広がっているはず。人族が絶滅するのは好ましくないのと同じように、あんなエルフでも絶滅するのを良しとはしないだろう。
とはいうものの、あの遺伝子レベルの凶暴性が修正されない限り、共存は難しいだろう。
ん?遺伝子か。女神様が感心していた宇宙神様による私の抑制遺伝子が入れば、エルフも大人しくなるのでは?遺伝子組み換えウイルス、そんな神の所業が許され・・・って、女神様がいるんだから神の所業は神がすればいいじゃない!
いいことを思いついたとばかりに、中央神殿に向かった。
◇
毎日祈りを捧げに通ううち、半年くらい過ぎたある日、以前と同じような感じで女神様に再会できた私は、前世の遺伝子を組み替えるウイルスの存在とコンセプトを伝えた。
結論から言うと受け入れられた。ただし、どこまで影響が波及するか予測できないので、まずは他の大陸に比べ小規模な集落であるアーランドのエルフに向けて、抑制ウイルスをばら撒いて様子を見るそうだ。具体的には百年ほど。
そんな先なら私が生きているうちにこの星のエルフの行く末を見ることはなそうですね。そう考えたら、女神様はキョトンとして宣った。
「あら、あなた百年やそこらじゃ死なないわよ?」
衝撃の事実を聞いてしまった。ハイヒューマンがエルフと同程度の250年から300年の寿命で、その始祖として作られた私の素体はハイエルフ同様、数千年は生きるらしい。
確か子供は2〜3人程度で未来の可能性は開かれるはずだから、幻影魔法でも開発して老いを演出して、折を見て隠遁しようかしら。でも私の子供たちは現在の人族に比べて長生きなのよね。出産の経験は前世から数えても持ち合わせていないけど、お腹を痛めて産んだ子から離れられるのかしら。
あれこれ考えていると、女神様には別に生涯一人の夫とは限らないのだから、しばらくしたら中央大陸とかに移って新しい人生を歩めばいいんじゃない?とか、今すぐには考えられないことを勧められた。
「私の寿命なんて推定100億年よ」
星の寿命に等しい女神様の感覚では、どんなことでも時が解決するものと経験則で語れることもあるのかもしれない。
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