第33話 婚約式
グレイ様に連行されるようにして登城した私は、皇帝陛下と正妃様に諸々の経緯を報告し、帰還の挨拶をした。
城内でも気がつかれず侵入を許したことを重くみたのか、あの後、私が出歩く際には城内であっても常に四方を近衛騎士に囲まれるようになってしまった。
私も常時発動できるようになった多重結界をさらに発展させ、一部を城全体、帝都全体を囲うようにした探知を兼ねた大規模結界の維持に努めた。
◇
一月が過ぎると、遅れていた婚約式が執り行なわれた。
ドワーフの親方衆が競って婚約式用に誂えた五種類のティアラはどれも素晴らしく、甲乙つけ難いものだったので、最終的にはグレイ様に選んでもらい、式典中に戴冠がおこなれた。プラチナを基調とした繊細なデザインにサファイアが散りばめられた上品なティアラは、ミナの特別な貴色にとてもよく似合っていた。
ドワーフの長に例の7種の酒を渡し、まだ途中成果であり共に研鑽していきましょうと伝えると、姫様の依頼であれば我らドワーフ一同、いつでも協力いたしますと宣言し、ドワーフ保護区へと戻っていった。
フィリス公国や商業都市国家からは、外交官より祝辞を述べられた。
公式の場で初めてお披露目された碧眼の瞳と紫銀の御髪そして輝くような美貌は、海千山千の外交官をして驚きの表情を隠せなかったようで、今から式典が終わった後の本国への報告をどうしたものかと頭をフル回転させているようだった。
◇
婚約式が無事執り行われた後、私は皇太子の後宮に移り住むことになった。
これからちょうど一年後、結婚式が執り行われることになるが、それまでに皇太子妃となった後の後宮の主人としての立ち回りや、女性騎士、女官といった人材を揃えていくこととなる。
通常は生家の貴族家から腹心を連れてきて、不足を皇家で補う形で城の近衛騎士団長とメイド長が選出するそうだが、ミナの場合、一応ローゼンベルク公爵の養女という形をとっているものの形式的なものだったので、ほぼ全てが城で選出された。
後宮に移り住んでから、グレイ様が執務の合間を縫って訪れるようになった。
逢瀬を繰り返すたび、護衛の女性騎士やお付きのメイドが見守る中、公然と唇を求められた。次第に激しくなっていく行為に、恥ずかしさで一杯一杯ですと伝えると、これは結婚式で慌てないようにする練習なんだよと言われた。
本当だろうかとお付きのメイドたちに尋ねると、あらぬ方向を向いて、「そ、そうなのではないでしょうか」と吃っていた。いくら鈍い私でもわかるわ。絶対違うでしょう!
それを伝えきいたメイド長は、その程度で表情に出すなど修行が足らないと若いメイドたちを叱っていた。見本を見せましょうと女性騎士に同様のことを尋ねると、ビシッと直立して踵を鳴らすと一瞬の遅れもなく
「ハッ!その通りでござます!」
と答えた。満足そうにうなずくメイド長を見ながら、なにか違うような気がしたけど、ここまで即答されたらそうなのだろうと考えそうな気がするミナであった。
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