第32話 帰還の挨拶

 ギルドの帰りにアランおじさんの店に寄ると、店番をしていたサラさんは驚いた顔をした後、私を抱き抱えて涙を流した。

 消息不明となり2〜3ヶ月が過ぎていたため、拉致されたのではと、こちらにも確認と連絡が来ていたらしい。心配をかけてしまった。


 奥のテーブルでお茶を淹れてもらうと、エルフに拐われて連行されそうになったこと、魔力を封じられ転移の失敗し別の大陸に飛んでしまったこと、元の大陸には遠過ぎて転移で戻ることができなかったこと、砂漠を横断したこと、大航海で大陸移動したこと、女神の使いである白竜さんの飛行魔法指導と道案内でこの大陸に戻ってこれたことなど、時系列的に起きたことを話した。


「そりゃまた随分な長旅だったんだねぇ」


 とにかく害されずに済んでよかったとホッとした様子だった。


 交易に出ていてアランおじさんには会えなかったのは心残りだが、城に戻らなくてはならない。私のせいではないが、長い間音信不通でいた私は受け入れられるのかと不安を伝えると、サラさんは私を包み込むようにして抱き上げ、


「何も心配することはないんだよ。もし受け入れられなかったらここに帰っておいで」


 と言ってくれ、思わず涙が溢れた。私はサラさんからもらった温もりを一生忘れないだろう。


 ◇


 次に登城を考えたが、2〜3ヶ月もいなかったのだから部屋がなくなっていてもおかしくないと思い、中央教会前に転移し礼拝堂で女神様の像の前で白竜さんを寄越してくれたお礼をした。

 その後、教皇様が私の来訪を伝え聞き取り急ぎ無事を確認しにきた。サラさんにした説明を繰り返し、城への先触れをお願いすると、快く引き受けてくれた。


 しばらく教会内の貴賓室で過ごしていると、ガチャガチャと複数の鎧が擦れる音が聞こえ、近衛騎士を引き連れた第一皇子殿下がノックもなく扉を破るような勢いで開け放った。


 慌てて立ち上がり淑女の礼を取ろうとすると、駆け寄ったグレイ様に抱き竦められると、唇を奪われた。目を見開いてなされるがままにしていると、しばらくして解放された。


「グレイ様、恥ずかしゅうございます」


 甘やかの余韻に顔を赤くして俯きながら恥じらうように訴えると、顎に手を添えられ顔を上げさせられると、もう一度キスをされた。今度は目を閉じ、グレイ様の想いを受け入れた。


 ◇


 どれくらいそうしていたかわからないほど長い時間が過ぎた後、わざとらしく咳払いをする音が聞こえると、我に返ったかのように離れた。

 いや、正確にはガッチリと腰に手を回されており、体は離れることを許されていない。


「積もる話もあるかと存じますが、まずは登城をお願い致します」


 近衛騎士に促されると、グレイ様は腰に手を回したまま密着するようにエスコートし、馬車に抱き抱えるように乗せてくれた。ここまであからさまなアプローチは経験がなく、記憶にある理知的なグレイ様とのギャップから、始終、顔から赤くなるのを抑えられなかった。

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