第27話 急転直下
視察と言う名の物見遊山が終わり帝都の城に戻ってきたら、第一皇太子との婚約式の日取りが発表された。なんとも急な話だが、私が旅先で色々とやらかしたことが遠因で、速やかな婚約を望む声を抑えられなくなってしまったらしい。
まだ心の準備が、などと言うつもりは精神年齢的になかったが、いよいよ皇子様との結婚が見えてくると嬉しいような恥ずかしいようなで、気もそぞろになっていた。
そんな油断もあったのだろうか。
中庭を歩いていたところ、急に後ろから甘い匂いのする布で口を抑えられたかと思うと、意識が暗転した。
◇
気がつくと、移動中の馬車の荷台と思われる暗がりで、口を塞がれ手足を縛られて転がされていた。
『気がついたようね』
荷台後部に寄りかかるようにして、やや耳の尖った金髪碧眼の女が佇んでいた。
どうやらエルフに拐かされたようだ。まさかあんな古典的な手法で来るとは思わなかった。
それにしても、目の前のエルフになんとなく見覚えがあった。エルフなんてログハウスを出る時にしか見たことは・・・そうか、あの時の三人組の一人ね。
「んんー!」
抗議するように声を上げると、冷たい目をして女エルフは私の腹をつま先で蹴り上げた。息が詰まり、思わず涙がこぼれ落ちた。
『黙ってな、煩くすると蹴るよ。というかエルフ語はわかるわけないわねぇ』
サディステックな表情を浮かべた女エルフは、そういうとケラケラと笑った。
とにかく逃げよう。そう思って転移しようとすると何か阻害する感覚に眉を寄せた。
『そのロープは世界樹の蔦で作られた特製の魔力縛りさ。思ったようには魔法は使えない・・・なんだって!』
魔力を封じられ恐慌状態に陥った私は、今ままで一度も全力を出したことのなかった魔力を全開にして阻害する感覚を強引に振り切ると、イメージを固める間もなく転移した。
◇
転移した先は見渡す限り何もない砂漠だった。引き千切られたかのようにズタズタになったロープを払い落とし、口を塞いでいた布を取り去ると、
「ここはどこ?」
地図でも見たことのない砂漠のど真ん中で呆然とつぶやいた。
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