第25話 ドワーフ保護区にて
ドワーフ保護区に着くと、5人の親方と面通しさせられた。
エルフと違ってドワーフはイメージ通りのずんぐりとした体型をした職人気質の種族になったようだ。
そんなドワーフたちだったが、なんだか物凄い目力を感じさせる様に私のことをジッと見つめると、親方衆からおかしな台詞を聞いたような気がした。
「こりゃたまげたわい」
「酒の女神は容姿も妥協は一切無し・・・か」
「釣り合いの取れる物は容易ではないぞ」
「ふふふ、降りるなら今のうちだぞ、小童ども」
「いってろ、爺さんこそ恥ずかしい代物出すんじゃねぇぞ」
折角だからと、仕掛かり祝いとばかりに、本醸造酒を取り出して味見してもらうことにした。木枡になみなみと継いだ日本酒を容器ごとアイテムボックスから出し、それぞれ親方に配ってもらう。
「姫様の心付けじゃ、心して味わえ」
ドワーフの長が親方衆に話すと、応ッ!とばかりに一気にあおった。
「・・・」
なんだか固まってしまった。ドワーフはお酒に強いって固定観念に囚われていたけど案外普通なのかな。結構、度数高めだと思うんだけど大丈夫かな?
そんな的外れの心配をして声をかけると、一様に首を振り、大丈夫だ、問題ないと言う。
実際のところは、先日のウィスキーでこれ以上ない最高の酒を味わったと思っていたのに、全く別方向に完成された酒を出されて言葉が出なかったのだ。
透明で限りなくスッキリとした辛口の大吟醸酒は、親方衆にそれほどの感銘を与えていた。
鑑定しても特に健康状態に異常はないって出ているし大丈夫なんだろう。
ミナはそう判断すると、
「あ、これは奥さんや娘さん用の甘いお酒と、それを使ったお菓子です!」
そういってバスケットに入れたラム酒の小瓶と、ラム酒を使ったモンブランロール、木苺風タルトの詰め合わせセットを渡した。
後日、親方衆はとんでもない爆弾だったと述懐することになる。甘い酒は親方衆の好みからは外れていたが、ドワーフ女性にとっては禁断の酒とお菓子のコンビネーションだった。
親方衆は事情を話しながら土産を渡すと、一様に懇願されたという。
「負けたら当分メシ抜きだからね!」
「パパ、一生のお願い。負けないで!」
ティアラの受注において「身につける人によって最高の装飾品の形は異なる」という、ドワーフの信条のアルコール版をやってのけたミラは、ドワーフから酒の女神と称えられるとともに、知らぬ間に親方衆を負けられない戦いへと投じることになった。
◇
第一皇子は、ここまでやる気を出しているドワーフを見たことがなかった。
一体、どんな魔法を使ったのか不思議に思い、おすすめとしてワインをあけてもらった。
「美味い」
2~3年ものの一般的な赤ワインであったが、それでも熟成してまろやかさを出す概念がなかったため、フィリス公国で少量生産されているものと比べ、格段に上質の味がした。
私は白ワインの方が好きなのと言って取り出したしワインは、苦味のない甘くフルーティな味わいで、女性受けしそうなことが容易に想像できた。
これらを蒸発させて酒精を凝縮すると、また別種のブランデーという酒になるという。
ミナは、注釈入りの図面とミニチュア模型を取り出しドワーフの長に手渡すと、ミナ一人の能力に依存しない安定した酒造生産のための必要性を説いた。
長をはじめとして親方衆はミナの依頼を快諾すると、足早に去っていった。
本命のティアラはちゃんと出来てくるのだろうか。
一抹の不安を覚えたグレイであった。
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