第23話 皇帝直轄領の視察
謁見を済ませ教会で洗礼を受けた後、色々な手続きがされた。
教会から正式に神使認定された私は洗礼名としてミドルネームをいただき、さらに皇子との婚約の前段階として、便宜上、ローゼンベルク公爵家の養女ということになった。これにより、ミナ・ハイリガー・ナナセ・フォン・ローゼンベルクという下を噛みそうな長い名前になってしまった。
公爵家の養女となっったものの、ローゼンベルク公爵領に移ることはなく、城の一室をあてがわれひたすら皇太子妃教育を受ける毎日だった。籠の鳥のような状況で息が詰まるかと思いきや、ミナは転移魔法が使えたため、隙を見ては商業都市国家のアランおじさんを訪ねては市場を回ったりしてストレス解消をしていた。
そんなストレス解消も、時折姿を消していることをメイドから報告され、へカテリーナにこっぴどく淑女のなんたるかを諭された。
その様子を見ていたレオン様は笑っていった。
「今度出るときは俺も連れて行ってくれ」
それを聞いたへカテリーナにミナ共々説教を受けることになったレオン様は首をすくめ、私の方を見て舌を出した。お茶目な皇子様だとクスッと笑ってしまい、更なる雷を受け首をすくめた。
◇
そんな様子を伝え聞いた皇帝は、皇子との親交を深める意味で、グレイ様やレオン様と皇帝直轄領への視察と称してその実は物見遊山の旅行に連れ出す許可をしてくれた。
レオン様は最初の印象通り、茶目っ気があり明るく親しみやすい方でした。狩りがお好きなようで、飛ぶ鳥を弓で一発で仕留めた時には凄いですと思わず手を取って感心を示すと、照れた様子で頭をかいていました。
私の魔法も見てみたいと王子様方が仰ったので、比較的穏便な山でのサバイバル生活の頃に使用していた「窒息からの雷コンボ」を使いました。まとめて墜落する鳥が、不意にアイテムボックスに回収されて掻き消え、手元に串焼きの状態で差し出されたのを見ると、あまりの非常識さにあんぐりと口を開けたかと思うと、次の瞬間にミナの魔法は一体どうなっているんだと大笑いされました。
また、飛ぶ鳥を見て、そういえば転移魔法が使えるくらいなら重力を遮断してジェット噴射をイメージして前方に風の抵抗をなんとかする結界を張れば飛行機のように飛べるのでは。そんな考えから少し試してみたら鳥を追い越すスピードで飛行できてしまい、大騒ぎになってしまいました。
これは重力の様な概念が必要なため、宮廷魔術師の方々に研究させることになりました。
航空戦力という概念のないこの星で、空から一方的に可燃物を撒くことができる。飛行魔法はそんな恐ろしい可能性を秘めていたが、概念だけでなく必要魔力という点からもミナ以外では実行できなかったので、向こう数百年の安寧は保たれることとなった。
◇
狩りの翌日、今度はグレイ様に連れられて視察に出かけることになった。
一方のグレイ様は外面は理知的で皇子然とした凛々しい雰囲気でしたが、内面的には優しく細やかな配慮ができる方で、視察先でも私が興味深そうにしていると、現地の責任者を呼びつけて説明をさせたりしてくれました。
視察中、水を汲み上げたり小麦の様な食物の実を粉化するのが大変そうだったので、簡単な手押しポンプと魔鉱を動力源とした自動ポンプ、水車や風車を動力とした製粉機と魔鉱を動力とした自動製粉機のアイデアを話すと、すぐに試してみることになりました。幸い、金属と魔鉱があれば魔力のゴリ押しで整形と付加は簡単にできたので、手押し式ポンプや水車・風車の様な昔ながらの物から一足飛びに、電気モーター式のポンプと製粉機ができてしまいました。
グレイ様は驚いて仕組みを聞いてきましたが、どうして回転エネルギーが発生するかの原理原則を知るには電流や磁気といった基本的な科学知識が必要なので、これも城に戻った後で宮廷魔術師に研究させることになりました。
色々楽しかったけれど、やっぱりまだまだ不便なことが多い。
これはもう、アイテムボックスの調理機能を使ったご当地グルメを伝道して食を豊かにして、上下水道完備、何より水洗トイレくらいは文明を進めるしかないわね。
そんな決意をしたミナが、聖母とは別に発明の母と呼ばれる様になるのは、後世になってからのことだった。
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