第22話 エルフの蠢動
エルフは強力な魔法を操るが、凶暴で協調性の乏しい性格から大規模な集団で攻めてくることはなく、人族との境界では散発的な戦闘が発生しても、一定の被害を与えた後は森に戻っていくのが通例であった。
しかし最近は人族が妙に強力な武器や結界を張れるような魔道具を持っていることから、以前のような人的被害を人族に与えることが出来なくなったことから、協調性の乏しいエルフであっても互いに情報交換をする様になってきていた。
生捕にした人族を拷問にかけたり幻惑魔法をかけたりして強引に聞き出したところ、人族の中に碧眼の瞳と紫銀の髪をもつ聖女があらわれ、強力な魔法付与を行使する様になったことで、戦力の底上げが図られるようになったらしい。
その情報を聞いたエルフの長老会は表面上はともかく裏では激しく狼狽していた。
「始祖様と同じ色彩をもつ人族だと!ありえんわ!」
人族とは比べ物にならないほど長い寿命を誇るエルフでは、人族では一部しか知られていない失伝した始祖たるハイエルフは、まだ忘れられていなかった。
始祖と同じであれば、人族はかつてのエルフの様に強力な魔法を扱える新人類が産まれていくことになる。何より衝撃だったのは、紫銀の髪が示すのは神の意志ということだ。
今までハイエルフの存在が、神に選ばれた種族としてエルフたちの矜持を支えてきた。それが下等生物と見做していた人間が同じ地位を占めることになるなど、凶暴な形質を受け継いだエルフたちにとって許容できることではなかった。
その女は我々エルフの苗床として、女神が用意したものに違いない。ハイエルフとヒューマンからハーフを経てエルフが誕生したように、エルフとハイヒューマンからより先祖返りをしたハイエルフが生まれるかもしれぬではないか。
そうと決まれば、その聖女とやらを生かして捕え、我々エルフがハイエルフに回帰するための聖母になってもらおうではないか。
強引な理論から実に身勝手な推論を導き出すと、長老会は若いエルフたちに人族の聖女誘拐計画の立案を指示した。
◇
「人族の街に潜入して碧眼の瞳と紫銀の髪をした娘を一人攫ってこいだ?」
計画の実行に白羽が立ったのは、奇しくもかつてミナが住んでいたログハウスを襲撃した若手のエルフだった。スリーマンセルで人族付近の森で活動していた彼らは、今回の任務には適していたのだ。
ただ、彼らはエルフの中ではまだ若く、瞳の色はともかく紫銀の髪がどんな意味を持つのか知らなかったため、下等生物と見下している人族の娘をわざわざ生かして捕らえる理由は思いつかなかった。
「よくわからないけれど、長老会で決まったことらしいわ」
それを聞いたエルフの男は舌打ちをした。老害どもの言うことを唯々諾々と聞くのは気が乗らなかったが、そんな彼らでも全ての付近のエルフの集落の総意である長老会の決定には従わざるを得なかった。
とはいえ森から出て人間臭い街に潜入するのは生理的な嫌悪があったため、計画が実行に移されたのは当分先のことだった。
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