第21話 中央教会にて
謁見を終えてしばらくした後、教皇様の招致があり中央教会に洗礼に行くことになった。
教皇様の招待状には、上位の神の使いということがわかったと書かれていたので、この星の神様とは別の存在の使いという、かなり正確な把握をされてしまったようだ。
とはいうものの、元日本人の感覚からしたら現地の神様も当然敬うべき存在よね。
そう思って洗礼を受けた後、中央教会中央の女神像の前でエスリール様に祈りを捧げていると、象が光ったかと思うと何もない空間に転移していた。
「こんにちは、宇宙神様の神使さん」
気がつくと目の前に言葉に同期するように明滅する光塊が現れた。
(まさか女神様?)
「当たり。まさか私のところに宇宙神様の使いが寄越される日が来るとは思わなかったわ。ポカやっちゃったわね」
やはり、こちらに転送される前にあった光輝く存在と同様、思ったことは筒抜けのようだ。
(ポカですか。エルフさんはどうしてあんな風になってしまったんですか)
「最初に遣わしたハイエルフの子は人間とも分け隔てなく交友関係を持てる優しい子だったのよ」
原初のハイエルフと人間のハーフが生まれ、ハーフ同士で交配して生まれたエルフの純血種たちは、遺伝子の性質として優しい性格をした子と人のように激しい性格をした子に分岐したそうだ。
「草食動物のような大人しいエルフと、肉食動物のような攻撃的なエルフが同じ集落にいたら、どうなると思う?」
答えは簡単。性欲という意味でも草食系だった大人しいエルフとガツガツいく肉食系エルフとでは、後者が優先して子供を残す様になり、それが何世代か続くと次第に草食系の遺伝子は淘汰されていったそうだ。生存競争とはいえ悲しい現実ね。
こうして、女神様が初めに作った大人しいエルフという形質を受け継ぐ種は結果的に滅び、当初考えていたエルフとは異なる凶暴な種が繁殖していったそうだ。
「その点、あなたの遺伝子はよく考えられているわ」
私の場合も同じ轍を踏む可能性があるかと思いきや、私自身の穏やかな性格が子々孫々では淘汰される可能性を考慮したのか、穏やかな性格と能力の強さを関連付ける様にし、激しい性格ほど能力的には弱くなるよう、反比例遺伝子が組み込まれているようだ。
あれか、男性だと過激な兵器をイメージした魔法を開発して自分ごと消滅する未来予測シミュレーションの結果が生かされているのかもしれない。
(そういえばツリーダイアグラムでしたか、それで未来分岐予測はされなかったんですか?)
「そんなことができるのは宇宙神様くらいのものよ。私のような惑星程度の寿命しか生きていない、生まれて間もない女神ができるわけないでしょう」
宇宙の始まりから比べたら、恒星系や惑星の寿命など高が知れているらしい。つまり宇宙全体の意識集合体である宇宙神様と、この星の女神様とでは、使う力の性質は同じでも強度や精度は段違いなのだそうだ。
「まあ、そんなわけで私にできることは宇宙神様の使いとして来てくれたあなたを全面的に応援することくらいなのよ」
そういうと、私の額をチョンと突かれた感触がした。
(あの、なにかされました?)
「少しね、精霊たちがあなたの言う事を優先するように目印をつけたわ」
エルフたちが使う魔法は精霊魔法であり、精霊に魔力を通していることから自分の魔力だけでなく精霊がもつ外部魔力を足し合わせているとのことで、そのままだと数に押されると少し危険かもしれないそうだ。
精霊の生みの親である女神様の印がついている者に精霊は危害を加えることができないので、結果的にエルフの魔法全般が私には効かない様になるらしい。すごい。
(これでエルフに襲われても安心安全ですね!)
「いや、剣で心臓を刺されたり脳を切られたら普通に死ぬから、結界は常時切らさないように気をつけるのよ」
確かに。気を抜くと魔法が解けてたりするが、精神的に修行すれば寝てても無意識に常時結界を維持生成することはできるそうだ。
「じゃあ頑張って。子作り応援してるわ」
と、最後にギョッとする事を言われ、気がつくと元の女神像前に戻っていた。
振り返ると教皇をはじめとして教会関係者が私に向けて全員祈りを捧げていた。女神様の印は精霊だけでなく、女神教関係者にも丸分かりのようで、今まで上位の神の使いと認識していたものの自分達が崇める女神とは別という断りがついていたが、今度はその女神様の印までついてしまったので、聖女だの聖母だのとは違うと言っても無理無駄になってしまいましたとさ。
なんだかより居づらくなったミナは、教皇様に女神様と話したエルフ誕生秘話など諸々の事情を伝えると、足早に馬車に乗り込み子爵邸に戻っていった。
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