第20話 謁見の後に

 謁見を終えたミナは別室に通され、皇帝、正妃様、第一皇子と第二皇子と面通しを行った。

 なんと、ようやく礼儀作法の教育が終わったかと思うのも束の間、今度は皇太子妃教育相当の淑女教育を施すのだとか。


 こんなロイヤルイケメン皇子たちに私など不釣り合いなのではと話すと、皇帝はキョトンとして私を見た後、ニヤリとチョイワルな表情を浮かべ、第一皇子をけしかける様にこう言った。


「グレイ。ミナに不満があるなら、先の勅命の撤回を考えてやっても良いぞ」


 それを聞いた第一皇子が慌てるようにしているのをチャンスと見た第二皇子は、


「兄上が辞退なさるのでしたら、この不肖レオン、喜んでミナ嬢を幸せにしてみせます!どうかお任せください!」


 と、野生味のある快活な笑顔を浮かべて宣言した。生前の歳を考えるとこんなショタ婚、許されるのだろうかと理性では考えつつ、少しドキドキしてしまった。


 そんな傍目には初々しく映るミナを見た第一皇子は危機感を覚え覚悟を決めたのか、


「いや、ミナ嬢はこの私が皇太子妃として迎える。レオンは余計な気を回さず、好きな娘と結ばれるが良い。兄も大好きなミナとのラブラブ新婚生活を今すぐにでもおくるから、安心するといい」


 と、ニッコリと笑ってとんでもない事を仰った。まさかこんな王子様然とした男性にストレートな好意を向けられるとは思っても見なかったミナは、思わず顔を真っ赤にして頬に手を当てて下を向いてしまった。


 その様子を見た第一王妃のヘカテリーナは、目に手を当てて上を向いて嘆いていた。

 夜会に参加する令嬢から、なかなか振り向いてもらえず氷の貴公子と呼ばれたグレイから、こんなメロメロに籠絡されたかのようなセリフを聞かされるとは。気の進まない皇太子をあの手この手で夜会に引っ張り出していた苦労はなんだったのか。


 だが女性のへカテリーナから見ても、神が造形したかのようなミナの美貌には、唸るしかなかった。事前にフィリスの第一公女すら霞むとカーライル子爵の報告書の内容を聞いてはいたが、実際に目にするまでは魔力や加護持ちアピールのために誇張された内容と、高を括っていたのだ。


 しかして実物は聞いていた以上だった。これで食指が湧かない皇子であれば、女性に興味が湧かないのではと世継ぎを作る資質に疑いを掛けてしまうだろう。

 また、何度も夜会を開いて積極的にアプローチしてくる令嬢に辟易していた影響からか、ミナの楚々とした風情は二人の皇子に拍車をかけていた。皇太子という人参をぶら下げられた令嬢たちに、押して駄目なら引いてみるなどといった駆け引きを要求するのは無理があったのだ。


 こうなれば、もはや自分がミナを皇子に相応しい淑女に育て上げるしかないと、覚悟を決めるヘカテリーナだったが、顔を隠していたミナはそんなへカテリーナの様子には気が付かなかった。


 こうして、今後の大雑把な予定について説明を受けたミナは、帝都の子爵邸へと帰っていくのであった。

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