第18話 皇帝との謁見

 比較的平穏な日々が続き、礼儀作法を担当する家庭教師の女史から皇帝の前に出ても大きな問題はないと判断されると、いよいよ帝都向かう時がやってきた。

 まさか私がこんなハイソサエティな世界に足を踏み込むことになろうとは前世では思いもよらなかったが、慣れてみると案外問題はなく礼儀作法や必要知識は染み込んでいた。この世界に来る前の年齢より数段若いし特製の素体だから覚えも良いのだろうと、ミナは能天気に結論付けた。


 帝都の子爵の屋敷に着いた後、メイドの皆さんに謁見に失礼のない装いを整えてもらい、あっという間に謁見の間まで来ていた。

 両側にずらりと並んだお歴々は謁見の間の扉から現れた私を見ると、一様に驚愕した表情を浮かべた。皇帝を直視することのないよう、目を伏せがちにしてカーライル子爵にエスコートされレッドカーペット中央を進んでいくと、ヒソヒソとざわついた話し声がそこかしこで上がった。


 カーライル子爵は皇帝の前20メートルのところで止まると、膝を折り右手を胸にあて皇帝に登城の挨拶を行った。


「皇帝が忠実な臣、カーライル。勅命により罷り越しました」


 私は教えられた通り両手をクロスさせるようにして子爵の斜め後ろの位置でふわりとドレスを広げるようにして膝を折り顔を伏した。


「大義である、面をあげよ」


 皇帝がそう言った後、そばに立つ宰相が復唱するように続ける。


「皇帝よりお許しがでた。面をあげよ」


 めんどくさいけど、皇帝に直答は許されないため、一度目で顔を上げられないのだとか。そういった事を思いながら顔を上げると、やや赤み掛かった金髪に緋色目をしたやたらと威厳のあるおじさまが正面に座っていて、脇に正妃様と思しき母性を感じさせながらも品のある女性が控えていた。その両脇前に十代の若い皇子たちが控えていた。


 尊い!あまりのロイヤルな雰囲気に緊張してしまい、あわてて伏し目がちに下方に目を向けた。その後、カーライル子爵が簡単に私の名前、出生の事情、能力や作成物、教育状況を報告して時間が過ぎていった。


「ミナ・ナナセは事情を鑑み、然るべき教育を施したのち、予、フリードリヒ・カイゼル・アレクス・フォン・ルーデルドルフの名に置いて、第一皇子もしくは第二皇子の正妃として婚約するものとする」


 と思ったらいきなり重要な発表がされて目を見開いて顔を上げてしまった。また尊いロイヤルファミリーをもろに見てしまい顔を少し赤くして元の角度に目を伏した。

 次の瞬間、両脇のお歴々が一斉に向いたかと思うと、「御意のままに」と揃って勅命を受けた。


 こうして、私のとって初めての謁見は終わった。

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