第17話 Side第一皇子:急な知らせ

 金色の髪に紺色の瞳を宿した第一皇子グレイは、急な皇帝の呼び出しに宮殿の長い廊下を足早に歩いていた。

 今日は剣の鍛錬の日で、日頃の帝王学の座学や貴族令嬢につきまとわれる煩わしい社交のストレス発散の機会を失ってしまい残念に思いながらも、自分以上に忙しいはずの皇帝と話す機会に何事かと首を傾げていた。


 自分とは別の足音に気がつき振り返ると、オレンジ色の髪を掻き乱しながら不機嫌そうに緋色の瞳を細めた第二王子が自分と同じ方向に歩いてくるのを見かけた。どうやら、似たように予定が崩れたのか機嫌は良くなさそうだ。


「レオン!おまえも呼ばれたのか?」


 そう呼びかけると、私に気がついたレオンは不機嫌そうな顔をあらため不思議そうにこう言った。


「兄上もですか。てっきり何か小言でも言われるのかと覚悟していたのですが違うようですね」


 あきれたことに何か怒られる心当たりでもあったようだ。同腹の第二皇子ということもあり比較的自由に振る舞える事もあり、奔放に育っていた。


「まあな、私もさっぱりわからんが、普段忙しい父上と語らう機会と思えば悪くはなかろう」


 そう言うと、弟皇子と共に皇帝の執務室に向かった。


 ◇


 執務室に通されると、皇帝と宰相、そして第一王妃が揃っていた。

 家族団欒の時間でもあるまいし、昼間から一体なんの話が始まるのかと訝しげな表情を浮かべつつ来訪の挨拶をすると、対面に座るように促された。


「実はお前たちのどちらかに婚約して欲しい娘がいる」


 なるほど、そうきたか。度重なる夜会を通して母上の厳しい選別も終わったのだろうと、第一王妃の方を見ると驚いた表情をしていた。どうやら想定外の事態が起きているらしい。


 レオンの方を見ると全く同じタイミングだったのか顔を見合わせ、訳がわからないと互いに肩をすくめた。


「陛下!一体どこの公爵家です?私を抜きに娘をゴリ押ししてきた家は」


 確かに公爵家出身である母上の同意を得ずに決めるとなると同格の公爵家しか考えられない。しかし通例では正妃を出した公爵家から連続して正妃を出すことはできないことから、わざわざゴリ押しするようなメリットはないため、前王妃の後ろ盾を得る正規の手段が取られるはずであった。


「どこの公爵家でもないし貴族ですらない」


 どういうことなのか。前例が全くない、いや何代か前に強い加護を受けた教皇の娘が側妃として嫁いだことがあったか?皇子教育として歴代の婚姻関係も叩き込まれていたグレイは家系図を思い浮かべた。


「なるほど、強い加護を受けた娘でも現れましたか?側妃であれば一人二人増えたところで母上がお気になさる事も・・・」


 そう続けようとすると、皇帝は手を前に出して静止を促し、衝撃的な事実を告げた。


「その娘は、碧眼の瞳と紫銀の髪を併せ持つエルフの始祖であるハイエルフと同等の存在と思われる神使様だ」


 碧眼の瞳!今までグレイは自分以上の魔力を持った人間を見たことはなかった。話を聞くと紫銀の髪はそれ以上の意味を持ち、神の造形物の証であり、エルフに対抗できる子孫を残すために遣わされたのだという。


 本当かどうか疑わしいが、他ならぬ皇帝の勅命であり、また弟とどちらでも構わないということから母上も納得されたようだ。実際に会ってみて気が乗らなければレオンに押し付けてしまえばいい。


 そう割り切れたのは、実際に彼女を目にする前の短い間だけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る