第15話 子爵邸での日々

 その後、アランおじさんを転移によりラウルの街に送り届け、しばらくカーライル子爵に身を寄せ、行儀作法を身につけることになった。

 そのほかにも一般的な貴族子女のように家庭教師もつけてもらったが、読み書き算術については、言語理解と前世の教育により問題ない、というか過剰であったので、主に歴史と現下の情勢を教えてもらった。


 ルーデルドルフ帝国の現皇帝は35歳と比較的若く、正妃様に17歳と15歳の第一皇子と第二皇子、第一側妃様に12歳の第三皇子、第二側妃様に少し歳の離れた6歳と4歳になる第四皇子と第五皇子がいらっしゃるそうだ。

 国内有力貴族や他国との関係を見据えた婚姻外交的に、皇帝は姫君が一人は欲しく第二側妃様を娶って頑張ったそうだが、見事に男系となってしまったそうだ。逆であったらかなりの問題が発生したが、できないものは仕方ないと割り切ったようだ。


 隣国のフィリス公国はフィリス公が52歳と初老の域にあり、28歳と25歳の公子が実務を取り仕切っているらしい。その下に少し歳の離れた20歳の第一公女がいたが、帝国とは歳の釣り合いが取れなかったことから、公国内の宰相家に嫁いでいた。(この世界では姉さん女房は好まれないらしい)

 第一公子には息子が二人おり、それぞれ10歳と7歳になるそうで、孫の代でも関係強化のための婚姻外交は難しいようだが、現在はエルフという共通の敵がいることから帝国との関係は比較的良好にある。


 商業都市国家は一種の合議制であることから貴族階級は存在せず、7家の豪商が持ち回りで代表を務めている。帝国や公国が騎士団や領軍のような常設部隊を持つのに対し、商業都市国家ではギルドとの契約に基づく傭兵で成り立っていた。


 帝国の南には火山地帯が広がっておりドワーフが住んでいるそうだ。彼らは火山地帯で採掘される魔法効果を持たせることができる魔鉱を加工した武器の製造において比類ない才能を発揮するため、代々の皇帝に保護されていた。

 エルフとドワーフは致命的に仲が悪く、ドワーフが製造する魔法武器がこの地域におけるエルフとの戦いで辛うじて均衡を保っていた。

 そのドワーフに対する報酬としては美味い酒であり、フィリス公国の酒造技術、帝国にいるドワーフが製造する武器、商業都市国家の塩が、これら三国間の主な流通となっていた。


「魔鉱で魔法がとどめられるなら、便利な道具が作れそうね」


 試しにと、子爵に頼んで魔鉱品を取り寄せてもらい、腕輪に結界やアイテムボックス、剣や鏃に空間断裂、雷、超振動などを付加してみたところ、ミナ自信が魔法を行使するより効果は小さくなっていたが、うまく付与できた。


 魔杖にレーザーを付加してみたところ、的を貫通して全ての建物を貫通して壁に穴が開くような飛び道具もできてしまったが、殺傷力がありすぎ要人警護に支障が出る可能性がある事から制作を禁じられてしまった。


 実はレーザーよりストッピング性能が高いレールガンや、複数の魔鉱を組み合わせることで街を吹き飛ばす程度の小規模(?)水爆弾なんかも作れてしまっていたのだが、空気を読んでアイテムボックスをそっ閉じした。


「神様のような存在も言っていた通り加減が大事、過ぎたるは及ばざるが如しの精神って大事よね!」


 などと冗談めかしていうミナだが、この天然判断こそがツリーダイアグラムの予測分岐において、未来に繋がる可能性の消滅を回避する分岐点であることを知るのは、送り込んだ集団意識体のみが知り得る事だった。

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