第9話 平穏な日々
サラさんにこの世界の常識を教えてもらいながら、あれから2年が過ぎた。
山を出たあと、ようやく落ち着いた生活環境を取り戻し改めて考える余裕がでたミナは、三つのことについて多くの時間を割いていた。
一つは今後の生計の立て方、一つは魔法開発、そして最後の一つは将来についてだ。
私には人より強い魔法があるから、手っ取り早く狩りをするという安易な方法もあるのだが、根本的な問題として食べ物に不自由しない街で住んでいると、生き物を無闇に殺すことへの抵抗が蘇ってしまった。
帝国と商業都市国家とを結ぶ交易街だけあって色々なものが揃う環境にあるのだから、同じ魔法でも化学知識を応用した錬金術方向を考えるか、あるいは魔道具、金属加工なども可能だろう。
ダイヤモンドなら構造や元素構成も簡単なので、イメージして魔法を発動してみると、案外簡単に作れてしまった。ダイヤモンドカットにして適当な金の指輪を作ってアランおじさんに売れそうか見せると、一般人には買えないそうだ・・・無念。
アイデア次第で安価なアクセサリは作れそうな気がしたが、宝飾品が一般普及するような文化レベルには達していない様なので、どうしても貴族向けになってしまうのだ。
それではと、イージーに大容量のアイテムボックスでアランおじさんがしているように、交易により大量に安く買って高く売るというのも将来的には考えられる。ただ、
「14歳の交易商人なんて信用がないわよね」
そう、将来的にはだ。
アランおじさんの見習い兼その実護衛として随行して、取引先と面通しをしながら顔を覚えてもらい徐々に信用を得ていくのが堅実かもしれないが、果たしてそこまで甘えてしまって良いものか。
そんなわけで一旦保留にして、まずは一般的なお仕事を覚えるという意味で店番をさせてもらっていた。個人で武器防具を見にくるお客さんはそんなに多くはいないと聞いていたが、結構な頻度でお客さんが来るようになっていた。
ミナは気がついていなかったが、看板娘として有名になっていたのであった。
◇
そんな難産な職探しとは別に、魔法開発の方は順調に進んだ。
まずエルフに破られてしまった結界だが、イメージの仕方次第で幾らでも強力にも逆にゴムの様に柔らかくもできた。自分の周りだけなら10層の多層結界すら可能で、街全体を覆う規模でも簡単には破られない結界を張ることができ、悪意を持つものだけ遮断というような条件付き結界もできた。さすが神様のような存在がつけてくれた能力と感心してしまった。
悪意を条件とした多層結界を自分の周り常時はれる様になると、今度は念のため攻撃力強化に乗り出した。
簡単(?)なところで落雷が出来たが、実際に使用してみると音が凄過ぎたので、山を出る際の簡易方位磁石の使用で使い慣れた電磁力を応用し、地面から砂鉄を集めてつくった鉄の杭でレールガンを打ってみた。真面目にやるとマッハを超えて衝撃波が発生した。大きな音が出ることに変わり無かったので、かなり手加減して打つ必要がありそうだ。
それなら太陽光をレンズのように収束したらどうかな。結論から言うとうまくいったが、これも威力がエグかった。
そういえば神様の様な存在が送り出すとき「くれぐれも加減するよう」言われた気がする。手加減大事ね。
得意の結界との複合なら被害を結界で抑え込みながら内部は強力にできるのでは。
そういったコンセプトで、結界で包んだ空間内に一酸化炭素を発生させる一酸化炭素中毒魔法や、結界で覆った内部で水を分解して同位体にした水素爆発をイメージして発動したところ、なんとうまくいってしまった。
ミナは物理や化学の治験を基にした魔法を作る癖があるようで、単純魔力による火・風・水・土・光・闇の具現の様な一般的な属性魔法では無かった。イメージなのだから、普通ならファイアーボールとかアイスニードルとかロックバレットとかウィンドカッターとか使いそうなものだが、生憎、ミナは生前ゲームをあまりしない女の子だった。
こうして本人が気がつかないうちに、魔法障壁が一切効かない魔法(物理)のラインナップが出来上がっていった。
毛色が違うところで転移も試みた。収納も時空に関するイメージなので、案外できるのでは。そう思ったところ、行ったことがあり強くイメージできる場所であれば転移できてしまった。交易で交易路を使わずに瞬時に、しかも大容量のアイテムボックスで移動できてしまうなんて、とんでもないロジスティック革命の可能性に気がついてしまったが、これも別の意味で強力過ぎた。
「移動に使うときは人に見られない様にね」
アランおじさんに釘を刺された。
◇
最後に将来について。
これは私も悩んだけど、最終的には帝国の貴族が望ましい結論に達した。何をするにしても目立ち過ぎるし、私の存在意義が人の進化であることから、ある程度は養育に余裕がなくてはならない。平民では幼い時期に流行り病や栄養失調で血筋が途絶えたら、神様の様な存在が見せてくれた未来分岐は、その根本から途絶えてしまうだろう。
なにより、あんな凶暴なエルフに街の人たちが無惨に殺される様な未来は見たくない。
2年の間街で暮らしているうちに、この世界で暮らす人たちに対して愛着が湧く様になっていた。
おじさん夫妻に相談すると、一瞬寂しそうな表情を浮かべたが、何か思いついた様子で、ある子爵に紹介してもらえることになった。
若い頃に、エルフの襲撃を受けた子爵領で軍事物資である塩を無償で譲ったことがあり、何かあれば口利きしてくれると言われていたが、社交辞令として捉えて特に何かをしてもらうこともなかったそうだ。
こうして、こんど交易で帝都に向かう際に、またアランおじさんについて旅にでることになった。
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