第10話 ラインの街へ向かう旅路
あれから更に数ヶ月が経ち春になると、帝国へ交易に向かう時期がやってきた。
アランおじさんが操る馬車に揺られながら住み慣れたラウルの街を出てしばらく進んだ後、ミナはかつてアランおじさんがグラスウルフに襲われていた地点まで転移していた。
「一瞬で道中の半分まで来てしまった」
聞いてはいたが実際に転移の恩恵を目の当たりにして唖然としているアランおじさんを見ながら、安全確認をのため周囲10kmをレーダーをイメージした探知魔法で探った。とりあえず半径10km以内には危険な動物や悪意をもった人はいないようだ。
「周囲は安全みたいだから少し休みましょう」
そういうとアイテムボックスから小屋を取り出して設置して結界を周囲に張った。この小屋はアランの敷地の離れにあったが、アイテムボックスで収納すればテントがわりになるのではと思ったミナがアラン夫婦に許可を得て持ってきたのだ。
「はぁ〜ミナ嬢ちゃんがいると交易路の常識が崩れるな」
小屋に入り、ミナからアイテムボックスから出した淹れたてのお茶とクッキーを受け取ったアランはすっかり寛いだ表情でお茶とクッキーを味わった。
交易路では野営を張るのが常識だ。アランは、見慣れた小屋の中でティータイムという非日常から落ち着きを取り戻すかの様に、地図を広げて現在地と残りの距離を指し示した。
「あと5日ほどでルーデルドルフ西端のラインの街に着く」
基本的に交易路の途中には街はもちろんのこと宿場となる村も存在しない。正確にいえば昔は存在した様だが、エルフの存在から自衛能力に乏しい小規模の村落は無くなっていったのだ。
今では駆除されなくなり数の抑制がなくなったグラスウルフが徘徊する一定程度の危険がある交易路になっていて、通常、交易商人たちはギルドから野獣避けに護衛を数人雇って旅をする。
そういったオーバーヘッドがあってもペイするのは、ルーデルドルフにとっては海に面したロスタリアから生活必需品である塩は欠かせず、ロスタリアにとっては武器の供与が欠かせないない対エルフ防衛事情があるためで、地理的条件と地政学的状況により、この交易路における需給バランスは保たれていた。
「山から降りてきた時に比べたら気楽なものね」
お茶を飲見ながらエミはまったりとした様子で嘗てのサバイバル生活からの逃避行を思い出していた。
そんな油断が生んだのか、“悪意のない”人の接近に気が付かなかった。
<コンコン>
小屋の入り口をノックする音が聞こえ、入り口付近に目をやると、次にタイミングを測ったかのようにエミとアランは目を見合わせた。
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